マイクロソフト
インフォメーションワーカービジネス本部
ユニファイド コミュニケーション グループ
部長
越川 慎司

電話と電子メールはコミュニケーションに不可欠なツールとなっている。インスタント・メッセージはこれら従来のコミュニケーション・ツールを補完するものとして注目を集めている。うまく利用すれば、コミュニケーションを効率化でき、生産性向上につながる。

 ここ数年の技術革新によって、社内外のコミュニケーションはより高度化し、その方法も多様化してきた。コミュニケーションの変化は、生産性を向上させるとともに、モバイル化とグローバル化が進み、24 時間 365 日稼働し続けるビジネス環境をもたらした。こうしたビジネス環境の急速な変化によって、求められる結果とそれに至るまでのスピードがこれまで以上に必要とされている。

図1●「部門の壁」を越えられない日本企業
図1●「部門の壁」を越えられない日本企業
出典:2005年8月 IT投資促進税制に関するアンケート(経済産業省)。
[画像のクリックで拡大表示]

 また、企業におけるIT導入は進み、一部ではグローバルな活動を行うための重要な経営基盤として活用されている。しかしその一方で、導入したものの使われていない、あるいは事業部や工場ごとにシステムを作り上げていて「部門」の「壁」を越えられない企業が7割以上というのが現状である(図1)。

 米国に比べて、企業全体で統一的にITを活用して効率を上げる、あるいは取引企業や顧客などの関係者を含め、企業を超えてITを活用するという点で大きく遅れているようである。 こういった「部門の壁」を越える為にも、誰でも使える効率的なコミュニケーション・ツールの重要性が増してくるのではないか。

 コミュニケーションの質とスピードが一層求められるなかで、これまでのツールでは問題が起こることがある。電話に加え、電子メール、携帯電話が標準的なコミュニケーション・ツールとして普及が始まってから10年以上が経過した。しかし、電話は相手がなかなかつかまらない、電子メールはさまざまなメールが届くため大量にたまるというように、先の見えない課題を抱えている。

 インスタント・メッセージ(IM)は、こうした課題の解決に一役買うツールである。「プレゼンス」(所在状況)機能によって相手の状況を確認してから、コミュニケーションを開始できるので無駄を少なくできる。また、メッセージの保存機能や、ほかのコミュニケーション方法への拡張性を備えている。このため、電話や電子メールの欠点を補完するツールとして注目されている。

メールに依存しすぎるリスク

 2006年7月にマイクロソフトとECリサーチが11万人の20代から50代のビジネス・ワーカーに対して共同で実施した調査で、社内での電話の使用頻度が減っていることが明らかになった(図2)。有効回答数717のうち30%の回答者が「この数年で固定電話の利用が減少した」と感じている。その理由として「メールでの連絡が増えたから」という回答が70%であった。

図2●電話の利用頻度が低下
図2●電話の利用頻度が低下

 ある調査会社のデータでは、日本のビジネスマンが1日にメールを処理する時間は約4時間以上かかり、8年前に比べて2倍以上になっているという。

 確かにメールは便利でビジネスには欠かせないが、それに依存しすぎるのには弊害があると思う。重要なメールが埋もれたり、理解度にズレが発生してしまったり、対人コミュニケーションが減少して社内の人間関係をぎこちなくしたりすることがあるのではないか。またビジネスの俊敏性を考えると、いつ返事が返ってくるか分からないメールを送信したまま待っているというのもおかしな話でないか。

2008年中にIMがメールのトラフィックを超える

 IMの利用が拡大しくことは疑いがないだろう。前述の調査会社Radicati Groupは、「インスタント・メッセージの利用量は、2008年までに電子メールを超える」と言っている。

 調査会社のIDCは「インスタント・メッセージはビジネス・ツールとして伸び続けており、活用する企業は既に世界で2800万社を超えており、数年以内に1日当たりのメッセージ送信数は10億通近くに到達する」という。

 また、インターネット上の3大キラー・アプリケーションは、メール、ブラウザ、IMという人もいます。

 現在10億台以上のPCがネットワークにつながり、さらにネットワーク環境の改善、業務アプリケーションとの統合、タイピングに慣れたユーザーの増加により、利用が拡大することは間違いないであろう。

IMの67%が電話で終わる?

 ある調査会社のデータでは、「ビジネスに関するインスタント・メッセージのやりとりの67%が、最終的には電話での通話になる」という。さすがに日本ではこの数字が大げさに見えるものの、Skypeをはじめとするコンシューマ向けのIMにはVoIP機能が付いており、むしろソフトフォンとして音声通話やビデオ機能をメインに使用するユーザーも少なくない。

 つまり、相手の状況を確認してから開始をするコミュニケーションは、テキストだけでなく、音声や映像通信においても効率的であるといえる。

 今後は、IMはメッセージをやりとりするだけでなく、統合コミュニケーション・クライアントとして企業に普及していくのではないかと考えている。

欧米で爆発的に普及する企業IM

 企業でのIMの利用は、欧米を中心に進んでいる。調査会社Radicati Groupが実施した調査によれば、北米の企業の約85%が、社内ネットワーク上で何らかの形式のIMを利用しているという。調査会社Gartnerも「企業 IM 市場は、展開の初期段階にあり、2010 年までには普及率が (商用電子メール アカウントを持つユーザーの)90% に達するだろう」というレポートを出している。

 欧米では従業員が公私の連絡を取り合うためにYahooやAOL、MSNのソフトウエアをダウンロードしたことで、普及に弾みがついた(表1)。

表1●欧米ではIMの企業利用が進む
ドイツ の情報通信会社シーメンス
コンシューマ向けIM を、高いセキュリティで保護されたIMソリューションで置き換え、タイムゾーンの異なるさまざまな地域に分散したスタッフ間での共同作業や意思決定の迅速化に役立てた。この企業IMとWeb会議の組み合わせにより、導入前に比べて会議を半減させながら競争力を保持することができた
米航空機メーカーのロッキード・マーティン
IMとプレゼンスを既存のエンタープライズ・インフラストラクチャに組み込み、基幹業務アプリケーションにおけるプレゼンス機能の統合を実現。コミュニケーションと共同作業の合理化、意思決定プロセスを単純化に成功した。セキュリティについても統合的に管理できるので、コンプライアンスも保持できた
米翻訳会社のバウン・グローバル(現ライオンブリッジ)
世界各地に分散する従業員に企業IMを導入し、電子メールの依存度を低減しながら共同作業と従業員の生産性を向上させた。IMからVoIPに切り替えることも多く、コスト削減にも大きく削減したという
米カリフォルニア州立自動車協会
セキュアな企業IMに移行。顧客対応用のコールセンター・アプリケーションに実装し、IMと電話を併用した生産性の向上を実現。既存のアプリケーションと統合したので、以前のコンシューマIMより使いやすさを向上した
カナダ通信会社のベル・カナダ
コンシューマIMをセキュアな企業IMに移行し、企業の公式な情報基盤として整備したことによって、顧客サポートを担当する従業員が、電話中でも互いにコミュニケーションを図れる環境を構築できた。また、同社の情報システム・ディレクターは「企業IMにより、(リモートの) 従業員がチームから孤立することがなくなった。彼らは、離れた場所にいるときでも、オフィスの中にいるように感じることができる」と話している
カナダ通信会社のTELUS
プレゼンスとIMをベースとしたリアルタイム・コミュニケーション基盤を構築し、7カ月以内に構築コストを回収し、コミュニケーション・エラーを35%削減、1ユーザーあたり約1万5000円の投資価値を生み出した。同社の業務アプリケーション・マネージャーは「生産性の向上により効率が上がり、毎年約2億円以上の利益を期待している」と話す
米テキサス・テック大学
全スタッフ、教員、学生にIMを導入し、リアルタイム・コミュニケーションに移行。「電子メールの氾らん」環境を改善できただけでなく、教員と学生の対話が33%向上、1ユーザーあたり年間で60時間のコミュニケーション・ロス(遅延)を削減、67%のユーザーが意思決定の迅速化を認め、80%のユーザーが重要な情報交換の効率向上を報告した
豪イーディス・カウアン大学
学生、教員、スタッフのワークステーションにセキュアなIMシステムを展開し、 共同作業とコミュニケーションの機能を高めつつ、学生と教員が互いに頻繁にアクセスするシステムの構築に成功した。結果として、コミュニケーション・コストを70%削減し、ビデオチャットやIM、ファイル転送を使って生産性を向上させた。利用方法に関するトレーニングは必要最小限に抑制できたと報告されている

 このようにIMは、IT部門の管理外で企業内に浸透した。そのため、多くのシステム管理者はウイルスに対するIMの安全性を懸念するようになった。特に金融や医療など、政府の規制を受ける業界では、職場でIMを使用することが各種プライバシーに関連する法律に触れるのではないかという不安が広がった。そこで、記録、認証、ID管理のような機能が含まれる企業向けIMが導入されるようになった。