次世代IPTVサービスに向けた関係者の調整の場は,2006年10月に発足した「IPTVフォーラム」が中心となっている。先に述べた国内標準仕様とは,IPTVフォーラムで策定が進む仕様(以下,「IPTVフォーラム仕様」)のことだ。

 IPTVフォーラムには通信事業者やテレビ局,大手家電メーカーなど,IPTVを巡り利害が対立する関係者が一堂に会している。こうした調整の場ができたのは総務省の強い意向があったから。総務省には2次利用の少ない放送コンテンツを,IPなどを使って流通させることで新たな市場を作り上げたいという考えがある。市場を成立させるうえで,IPTVの普及は欠かせない。

 IP再送信の実現に道筋が付いたのにも総務省の手助けがあった。総務省にとって2011年7月の地上波放送のデジタル移行は,全省挙げての一大目標だ。移行実現のためにIPインフラを電波の補完手段として使う方針を打ち出している。

 そのためIPTVによる地上波の再送信の障壁となっていたIPマルチキャストの著作権法上の扱いを,2007年1月に変えた経緯がある。

各プレーヤの意見がかみ合わない

 IPTVフォーラムは10月に開催したオープンセミナーで,この1年間の成果を披露した。ここで最初に紹介した次世代IPTVの実像が初めて公になった。

 もっとも次世代IPTVを巡っては,通信事業者とテレビ局,大手メーカーとの間で意見がかみ合わない場面も見える(図1)。次世代IPTV市場が立ち上がるかはまだ予断を許さない。

図1●次世代IPTVを巡る通信事業者とテレビ局,家電メーカーの動き
図1●次世代IPTVを巡る通信事業者とテレビ局,家電メーカーの動き
IP再送信を実現し,IPTV機能をテレビに内蔵してもらいたいとする通信事業者の願いに対して,テレビ局,家電メーカーの反応は鈍い。
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 放送局にとってIPTVは,自らのビジネスを縮小する可能性と,ビジネスを広げる可能性の両方の側面を持つ。IP再送信は,自らのコンテンツでIPTVサービスを強化する格好になるため「敵に塩を贈るようなもの」(あるテレビ局関係者)と,できれば積極的に協力したくないとする見方がある。その一方で放送以外の収入を拡大する上で,IPTVによるVOD(ビデオ・オンデマンド)サービスに対して密かな期待を持ち続けている。

 家電メーカーはテレビの台数を多く販売することが至上命題。新たな価値を付ける意味で,家電メーカー5社を中心としたテレビ向けポータル・サービス「アクトビラ」対応のテレビをいち早く市場に投入した。NGNを使った次世代IPTVについては,市場性を判断している状態で,製品投入には慎重だ。