「NGOSS」(new generation operations systems and software)は,通信事業者の業務にかかわるオペレーションを柔軟かつスリムにするためのフレームワーク。通信事業者がNGNに向かう中で,“融合・統合”や“複雑化”が進むネットワーク上で多様なサービスを提供するための環境を整備する。
NGN(次世代ネットワーク)時代のビジネス環境では,すべてのものがコンバージェンス(融合・統合)すると言われている。統合したネットワーク上で多様なサービスが提供され,ホーム・ネットワークも複雑化し,通信事業者やサービス・プロバイダ,端末メーカーなどが融合して,複雑なバリューチェーンを形成するようになる。
この環境の下でNGNに求められる業務オペレーションも,複雑かつ柔軟になってきた。柔軟でスリムなオペレーションを業界全体で目指すため,TMFは「NGOSS」と呼ぶフレームワークを作成している。NTTコムウェアもTMFへの理事メンバーの派遣や事例紹介を通してその発展に貢献してきた。
NGOSSは中立的なネットワーク技術で,特定の技術を利用する制約はない。NGNの下で利用されることも必須条件ではない。具体的には,(1)Time to Marketの短縮化,(2)統合化コストの低減,(3)維持管理コストの低減,(4)新技術導入の簡素化,(5)多様な技術による実装のサポート──などを目指している。通信事業者のオペレーションを,時代の要望に合わせて効率化したものに進化させていく動きと言える。
NGOSSを構成するのは,基本的に「eTOM」(enhanced telecom operation map),「SID」(shared information/data model),「TAM」(telecom applications map),「TNA」(technology neutral architecture)という4種類のフレームワークである。eTOMは業務プロセス,SIDは情報体系,TAMはアプリケーション機能,TNAはシステム統合のフレームワークを規定している。
さらにNGOSSは独自のライフサイクルとして,ビジネス・ビュー,システム・ビュー,実装ビュー,商用展開ビューを規定している(図1)。一般的な開発サイクルに照らすと,業務設計から機能設計段階あたりまででeTOMの業務プロセスとSIDの情報体系を活用し,機能設計段階から実装段階にかけてTAMやTNAを活用する格好となる。
図1●NGOSSを構成するフレームワーク群 eTOM,SID,TAM,TNAという4種類のフレームワークを規定し,独自のライフサイクル(ビジネス・ビュー,システム・ビュー,実装ビュー,商用展開ビュー)と対応させている。 [画像のクリックで拡大表示] |
最近ではこれらのフレームワークを活用したMTOSIやMTNMなどの採用が海外で広がりつつある。
業務プロセスを定義するeTOM
eTOMは通信事業者向けの業務プロセスのフレームワークで,NGOSSフレームワークでは最も有名なものである。
通信事業者はeTOMを,(1)自社内の業務を俯瞰的にとらえ,(2)社内外のステークホルダ間で業務プロセスについての合意を図るためのツールとして活用する。これはBSS/OSSを開発する際に,同一の業務プロセスでも事業者間,部門間などで別の表現を使う場合があり,業務設計を行う際の仕様認識誤りの一因になっているからだ。
首尾一貫した業務プロセスの集まりであるeTOMをベースとすると,一貫性の高い業務フローを作成できる。さらにeTOM準拠で構築した業務プロセスやシステムの再利用が容易になる。
eTOMは業務プロセス全体をレベル0,レベル1…と徐々に細分化して定義している。現在最も細分化されたレベルはレベル3である。
eTOMは他事業者との連携を考慮し,顧客向けや供給者/パートナ向けの業務を通して互いに連携してバリューチェーンを構成することを可能にする。NGN時代のビジネス環境もある程度考慮している(図2右上)。一方で最も細分化されたレベル3(図2右下)でも特定のネットワーク技術に特化した業務プロセスは出現しない。NGNを含むネットワーク技術に中立的な立場にあるフレームワークといえる。
図2●eTOMの全体像 通信事業者向けの業務プロセスをレベル0から段階的に細分化して定義している(出展:TMF)。 [画像のクリックで拡大表示] |
eTOMで定義される業務プロセスは汎用的で詳細化がなされていないため,個々の企業が要件定義などに活用する場合は,独自で詳細化する必要がある。
eTOMは国内よりも海外の適用例が多い。ただし単に参照モデルとして参考程度に使うものから,eTOMをベースに詳細な業務プロセスを構築するものまで適用レベルには差異がある。
実際の適用例で確認されている効果としては,(1)ソリューションの再利用性,(2)合意形成のためのコミュニケーション・ツールとしての効果,(3)初めから新しく業務プロセスを構築する際(ケーブルテレビ事業者など)の業務設計作業の効率化──などがある。
ただし前述の通りeTOM自身が詳細化されていないため,業務の詳細設計に活用する目的には向かない。また,通信事業者個別の業務課題は考慮していないため,業務の効率化への直接的な貢献が難しい場合もあるだろう。
eTOMは,ITU-T標準のM.3050シリーズに採用され,業界標準としての地位を固めつつある。TMFではeTOM自身のバージョンアップを継続するとともに,標準間のマッピングなどITILをはじめとするほかの標準との関係整理を進めている。