2008年に登場する見込みの次世代IPTVサービスは,様々な事業者のサービスを共通の端末で楽しめ,地上波のIP再送信に対応するという特徴を持つ。懸念が残るものの,いくつかの対応端末が市場に出てきそうだ。

 ただしコンテンツを視聴するユーザーの視点からは,次世代IPTVはようやくCATVに追いついたに過ぎない。アクセンチュア通信ハイテク本部メディアエンターテイメント統括の堀田徹哉エグゼクティブ・パートナー は「ユーザーに新たな価値観を与えるサービスでないと,大きな発展は望めないだろう」と語る。IPTVの成功事例として語られることの多いイタリアの「FASTWEB」にしても「CATVがほとんど普及していなかったイタリアでは,多チャンネル放送の魅力をIPTVが初めてもたらしたため成功した」(同)と分析する。

 CATVが全世帯の4割程度まで普及している日本では,CATVに追い付いただけでは市場拡大を期待できない。本格的に広げるには,IPTVならではの利便性と魅力を持ったサービスが不可欠だろう。

 もちろん通信事業者各社も,IPTVならではの新たなサービス提供に向けて構想を練りつつある。NTTサイバーソリューション研究所の川添主幹研究員は「見逃したコンテンツを視聴できるようなサービスや,メタデータを使って見たいシーンだけを効率良く見られるといったサービスを検討している」と語る(図1)。

図1●IPTVならではの新たなサービスが求められる
図1●IPTVならではの新たなサービスが求められる
次世代IPTVがユーザーにとって魅力的なサービスになるためには,IPTVならではの利便性を追求したサービスが必要だ。

現時点では市場の強力な推進役が不在

 このような新たなサービスへの取り組みに加えて通信事業者には,家電メーカーや放送局とのさらなる関係強化が欠かせない。放送・通信業界に詳しいオフィスNの西正代表取締役は,「IPTVは通信事業者とメーカー,放送局のかけ算によって市場の規模が決まる。誰かがゼロだと市場はゼロになるし,皆が協力すれば市場の広がりは計り知れない」と期待を口にする。

 関係者の話を総合すると,現時点では総務省のバックアップの下で,通信事業者が家電メーカーや放送局に対して,次世代IPTVサービスへの理解を必死に求めている段階といえる。家電メーカーや放送局は,IPTVの市場性を値踏みしている立場で,まだ積極的に市場を切り開こうとはしていない。現在は市場の強力な推進役が不在に見える。

 その意味では,NGNの実用化を目指している通信事業者こそがリーダーシップを取り,IPTVの市場性や未来像を,家電メーカーや放送局に訴える必要がある。こうした動きこそが,通信事業者自身のそしてユーザーのメリットにつながる。

 NGNの商用化を目前に控えた今は,日本のIPTVのこれからを決めるまさに重要な時期と言える。