多岐にわたるNGOSS適用パターン

 国内では今のところ,NGOSSを大規模システムに適用したという目立った例はない。海外の国や地域では,通信事業者の規模,ビジネス展開方法,地域,業種などに合わせて様々な形での適用が始まっている(表1)。

表1●通信事業者で始まったNGOSSの適用
事業者の状況やタイプに応じて,NGOSSの適用レベルには差異がある。
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表1●通信事業者で始まったNGOSSの適用

 例えば,先進国の大手通信事業者では参照レベルにとどまっているところが多い。一方で,新規参入事業者や新興国の通信事業者などが,自社システムをNGOSSを参考に構築している傾向が見て取れる。吸収合併などを繰り返し,配下に複数の国や地域を抱える通信事業者には,地域ごとの事情の違いが大きいため,全体を標準的なプロセスにそろえて効率化を図る必要性があるためと推測できる。

 組織間,パートナ企業間などでの意識合わせのためのコミュニケーション・ツールとしてNGOSSを活用することに一定のメリットはある。しかし,情報収集や参照モデルのレベルではNGOSSが目指している本来の目標を十分に達しているとはいえないだろう。

 SIDやeTOMを独自に詳細化した例はあるが,前述のSIDの例のように情報体系の維持管理に思いのほか手間がかかるなど,これらフレームワークを使わなかった場合と比べたメリットを定量的に示せていない。企業にとっては,コスト削減など定量的なメリットを出すことが目標であるべきだが,現時点では定性的なメリットにとどまっているものが多い。

 一方で最近ベンダーなどに採用が広がりつつあるNGOSSのフレームワークに準拠したインタフェースでは,「故障管理統合システムで50%のコスト削減」など定量的な導入効果を,成功事例として報告しているものも見えてきた。

 NGOSSのメリットを享受するには通信事業者,ベンダーそしてNGOSSが互いに連携してエコシステムを構成することが理想だろう。この場合,通信事業者はNGOSSに準拠することによって安く製品を調達でき,ベンダーはNGOSS準拠した製品を市場で販売することで品質の高い製品を安く提供できる。NGOSSは通信事業者/ベンダーからのフィードバックを受け,ビジネス環境に適したものに進化していくというイメージである(図4)。こうした環境に向けTMFは,NGOSS準拠のインタフェースやソリューションを市場に迅速に提供するための仕組みを構築しようとしている。

図4●通信事業者,ベンダー,NGOSSが連携した適用パターン
図4●通信事業者,ベンダー,NGOSSが連携した適用パターン
通信事業者,ベンダーそしてNGOSSが相互に連携することでそれぞれがメリットを享受しエコシステムを構築することも可能になる。
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NGOSS製品化を促すProsspero

 ProssperoとはNGOSS準拠製品を,市場に迅速に提供するための枠組みであり,TMFが運営する。現在TMFで最も注目されている言葉と言える。

 NGOSSフレームワークは特定の通信事業者の要望を取り込んだだけではなく,業界全体の最小公倍数としての側面を持つ。フレームワークありきで出発している点ではシーズ指向に近いため,広く活用されるようになるまでの間に死の谷(chasm)があると考えられている。この死の谷を埋める働きをするのがProssperoである(図5)。

図5●NGOSS準拠製品を市場に迅速に提供する「Prosspero」
図5●NGOSS準拠製品を市場に迅速に提供する「Prosspero」
フレームワークであるNGOSSを製品化するまでにある「死の谷」を埋めるための枠組みである(出展:TMF)。
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 具体的にはまず最初にProsspero承認プロセスがある。このプロセスを通してTMFはNGOSS準拠インタフェースやAPI,ケーススタディなどのノウハウをProssperoソリューションとして採用する。採用されたProssperoソリューションはWebポータル(Prossperoポータル)より市場に公開される。

 このポータルを通じて,誰でもソリューションで提供されるノウハウにアクセス可能だ。具体的には利用前に参考になるケーススタディなどから,要件定義時に活用できるRFPガイドライン,実装時に実際に利用できるAPIソースコードなどがある。現在はリソース管理や故障管理などを4種類のソリューションが採用されている。

 Prosspero導入前から存在していたNGOSS準拠インタフェースを適用した製品をベースとしたノウハウが,Prossperoソリューションとして採用された例も少なくない。ポータルで公開されているケーススタディもProsspero導入以前から採用していた通信事業者の例も含まれている。

 ポータルから得られる情報だけでは,Prossperoポータル上のソリューションを見て採用に至った例がどの程度あるかは分からない。Prossperoの仕組みの実力は未知数ともいえる。ただNGOSSの普及を目指した非常に意欲的な試みであることは間違いない。