梅雨の長雨,相談室はいつものごとく開店休業状態である。所長の四谷博士と相談員の市谷君は世間話で時間をつぶしている。

市谷:そういえば最近,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に招待されたんですよ。

室長:おお。時代の最先端って感じじゃな。

市谷:先月と反応が同じですよ…。それで偶然,SNSで昔の友達に再会しました。

室長:どうやって再会したんじゃ?

市谷:たまたま同じコミュニティのメンバーになっていたんですよ。趣味が一緒だったんですが驚きました。

室長:その友達は本名で参加しておったのか?

市谷:そうではないんですけど,昔のニックネームを使っていたので気付いたんですよ。プロフィールを見たら住所と出身校がそれらしかったので,メールを出したら本人だとわかりました。

室長:ううむ…。そのSNSでは住所とか公開されておるのか? プロフィールは赤の他人も見てるんじゃろ?

市谷:公開しているといっても,全部ではありませんよ。それに,見に来るのは知り合いばかりですし。…あ,噂をすればその友達から電話です。もしもし。…え! …ええっ!

室長:どうしたんじゃ?

市谷:友達の仕事仲間のブログが「炎上」しているんだそうです。

室長:炎上? 火事にあったのか?

市谷:…ブログのコメント欄がえらいことになっているんですよ。

 「炎上」とは,ブログや掲示板に誹謗(ひぼう)中傷や罵詈雑言(ばりぞうごん)を含めた攻撃的・批判的なコメントが集中して,機能不全になることを指す。コメント機能が実際に使えなくなるわけではないが,論争中の当事者,あるいは攻撃や批判を繰り返す人間以外は発言できないような殺伐とした雰囲気になってしまうのだ。

 ブログや掲示板は,実質的に匿名で書き込めるため,書き込む側が思ったことをストレートに書いてしまいがちだ。無責任な批判や罵倒のコメントが次々と書き込まれ,火に油が注がれた状態で歯止めがかからなくなってしまうことがある。

市谷:炎上するだけならまだいいんですが,友達の仕事仲間の住所や電話番号,勤め先などの情報が公開されてしまって,いやがらせの電話がかかってきたりしているんだそうです。

室長:ブログに個人情報を書き込んでおったということかな?

市谷:いや,そんなことはまったくなかったそうです。友達は,どうしたらブログやSNSで個人情報が勝手に公開されないようにできるのか,知りたがっています(図1)。

図1●ブログから個人情報が漏れないようにする対策は?
図1●ブログから個人情報が漏れないようにする対策は?
ブログが炎上。すると,個人情報まで暴かれてしまうこともある。個人情報が漏れないようにするには,どうしたらいいのだろうか。

室長:相談じゃったか! ううむ,まずは,どのように漏れたのかを知ることが大事じゃな。くだんのブログを見てみることは可能じゃろうか?

市谷:ちょっと待ってください,友達に聞いてみますね。…わかりました。このページだそうです。ああ,これは典型的な炎上のパターンですね…。

室長:ううむ…。もしかしてこのあたりから漏れたのではないかのう。

市谷:どこです? ああ,炎上した記事とは別の過去記事ですね…。ありゃ,コメントに自分が入っているSNSへのリンクが張られていますね。

 ブログや掲示板の炎上がきっかけになって,当事者の個人情報が暴かれることは珍しくない。個人情報を公開したつもりはなくても,過去の書き込みやそこからのリンクを基に芋づる式に探し当てられてしまうのだ(図2)。

図2●個人情報は芋づる式にたぐられる
図2●個人情報は芋づる式にたぐられる
一カ所で公開する情報に気を付けていても,リンク先や友人のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に書かれた情報を探り当てられて関連付けられることがある。