ワープロ、表計算、プレゼンテーションの機能を統合したオフィス・ソフトに、“Web化”の波が押し寄せている。Webオフィス・ソフトは、マイクロソフトの独占に影響を与える実力を持っているのか。「経営とIT」サイトの谷島宣之編集長が、日経コンピュータの玉置亮太記者に尋ねた。

Y 今年は、マイクロソフトのレイ・オジー氏のインタビューを実現させたり、「インフラ2.0根掘り葉掘り」というコーナーを作ってもらったり、大活躍だったけれど、一番印象に残った出来事というと何かなあ。やっぱり、オジー氏のインタビューですか。

T 一つはそうですね。ただ、それは個人的に印象に残ったことで、2007年から2008年のITトレンドとは別の話でしょう。客観的に言うと、トレンドとしては、やっぱり、Webオフィス・ソフトの台頭です。

Y Webブラウザだけで、オフィス・ソフト製品の機能を使える、というあれですか。この間、久しぶりに日経コンピュータの編集長・デスク会議に出たら、「玉置はなぜ、Webオフィスばかり提案するのだ」という話になっていたが。

T そもそもマイクロソフトOfficeをほとんど使っていないYさんには、そのインパクトが分かりにくいのでしょうが、ブラウザさえあれば、オフィス・ソフトの機能をどこにいても使える、というのは、ワークスタイルに大きな変化をもたらすと思います。

Y その話は今年の夏に、別のT記者と一回議論したなあ(関連記事「「使い出したら止められないGoogle」の論理不整合を突く」)。

T あの時、議論の俎上に上っていたグーグルのGoogle Documentは、ワープロ、表計算にプレゼンテーション・ソフトまで揃いました。さらに、ThinkFree、Zohoといった、Web版統合オフィス・ソフトの対抗馬が出揃ってきています。

Y グーグルもベンチャーの技術を買ったんだよね。大手ソフト会社の動きはどうなの。

T マイクロソフトはあくまでも、Officeを推すわけですが、利便性の向上という意味で、Office文書のオンライン共有ができるサービス「Office Live Workspace」を準備するなど、動いています。この10月には、米アドビシステムズがベンチャー企業を買収して、「Buzzword」というWebワープロをラインナップに加えたばかりです。それから、Webオフィス・ソフトとはちょっと違いますが、IBMがLotus Notesの部品として「Symphony」というソフトを配布しています。Symphonyは、オープンソースのオフィス・ソフト「OpenOffice.org」を基に作られています。

Y そうした製品というか、Webサービスは、すべてマイクロソフトOfficeをターゲットにしているわけ。

T 確かに見た目はMS Officeっぽいだけですし、Officeで作ったデータを読み込めるようになっています。純粋に単体の文書作成ソフトとしてみても、Web版の使い勝手は上がっていますね。ただ、Webオフィス・ソフトを作っている企業は、そうしたOffice同等機能に加え、スタンドアロンではなくネットを介した協同作業を前提にしていて、そうした複数人における編集作業やデータ共有をやりやすくしている点が、既存のオフィス・ソフトと大きく異なる所です。見ようによっては、Webオフィス・ソフトはグループウエアの一種と言えるかもしれません。グループウエアとオフィス・ソフトの境界が、だんだん無くなりつつあるのではないでしょうか。

Y ただ、何度も言っているけれど、もうマイクロソフトOfficeを買って使っている企業が、わざわざ入れ替えるのかなあ。ソフトウエアとかシステムの慣性力って、相当あるからね。

T 確かに、すぐそうなるかというと、それはないでしょう。SymphonyやWebオフィス・ソフトを真剣に検討・調査している企業はあるのですが、まだまだ一部であり、MS Officeが明日にも死ぬ、という話ではありません。

Y じゃあ、Webオフィス・ソフトを作っている人達は何が狙いなの?大手ソフト会社に企業ごと買って貰うわけ?

T M&Aのところはよく分かりませんが、Webオフィス・ソフトの当事者たちは、MS Officeが手強いことは理解していて、ネット経由のコラボレーション用途を狙うことで、差別化しようとしています。売る相手も、中小企業とかスタートアップ企業、教育市場を狙っていますね。もっとも、グーグルの思惑はちょっと異質な気がしますが。

Y 製品やサービスが揃いつつあるということは、2008年も盛り上がる話なのかね。

T 間違いなく続きます。むしろ2008年が本番でしょう。Yさんもひとつ、Webオフィス・ソフトを使ってみて、新しい波に乗ってはいかがですか。

Y うーん。僕が使っている国産ワープロ・ソフトのWeb版が登場したら、ちょっと考えるかもしれない。