大手メーカーもEnterprise2.0の動向に刺激を受けている。米IBMのこうした動向に触れた日経コンピュータ8月6日号の記事を公開する。米IBMは2007年7月2日に「Project Zero」、6月11日に「Jazz」というコミュニティ・サイトを開設した。これらのサイトは、IBMのソフトを作る開発者を募るものだ。 オープンソース・ソフトとは異なりIBMが著作権を所有するが、開発者にソースコードを公開し迅速な開発を目指す。

 Project Zeroは、PHPやGroovyといったスクリプト言語を使った開発環境とそれを作るためのサイトの名称である()。実体はオープンソースのEclipseのプラグインで、開発フレームワークとPHP、Groovyの実行環境からなる。複数のWebサイト上のアプリケーションを組み合わせて活用する、「マッシュアップ」を実現するときになどに向く。

図●IBMが開設した、新製品開発を進めるためのコミュニティ・サイト
図●IBMが開設した、新製品開発を進めるためのコミュニティ・サイト
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 Jazzは、物理的に離れた地域の開発者が、共同でソフト開発を進めるためのツールと、それを作るためのサイトである。要件の集約からテストまでのソフト開発のライフサイクル全般について、統合的に作業を支援する。

 両サイトに共通するのは、IBMの商用ソフトであるにもかかわらず、不特定多数の開発者の参加を前提としていることだ。開発者は、開発途中のソフトを無償でダウンロードしたり、ソースコードを直接修正したりすることができる。IBMはこれを「Community-Driven Commercial Development(コミュニティ指向の商用開発)」と呼んでいる。

 IBM社内の開発要員だけでなく、より多くの開発者の目を通すことによって、ソフトの品質を高め、開発スピードを向上させることを狙う。「自社製品でありながら、オープンソースの開発プロセスを採用した。しかし、オープンソースとは違い、ソフトの所有権はIBMに所属する。これまでにない試みだ」(日本IBM広報)。

 オープンソースという形式を選択しなかったのは、IBMがソフト開発に強く関与するためだ。一般に、オープンソースの開発では、ソフトの所有者は開発コミュニティである。

 オープンソースであれば、企業は所有権を放棄しなければならない。当然、ソフトの開発を主導するのが難しくなる。IBMはこれを嫌った。

 しかしこれは両刃の剣である。開発者への魅力が下がる可能性があるからだ。Community-Driven Commercial Developmentの自由度は、オープンソースに比べると低い。例えば入手したソフトは、プロセサの数に関係なく4コアにまでしかインストールして使ってはいけない。商用目的で使用してはいけないほか、1カ所で、4インスタンスまでしか動作させてはいけない、といった制約がある。

 多くの開発者が参加しなければ今回の取り組みの意味はなくなる。現実に、Community-Driven Commercial Developmentが商用ソフトの開発方法として、どれだけ成功を収めるかは未知数である。