11月22日,2.5GHz帯を使う無線通信事業の免許割り当て(特定基地局の開設計画の認定)に関連して公開カンファレンスが開催された(関連記事1)。事業申請をした4社の代表が一堂に会し,事業計画の一部を公表し意見を交換した。それぞれの考えはある程度明らかになったものの,そこで決定打があるわけもない。結局,当初の予定通り,事業者の決定は総務省と電波管理審議会の非公開の検討に委ねられる。無理を承知で言う。事業者の決定は,国民投票にできないものか。

 2.5GHz帯の無線通信事業とは,BWA(Broadband Wireless Access)と呼ばれるもので,WiMAXが有名である。移動通信と固定通信があり(関連記事2),今回,注目されているのは移動通信である。この移動通信事業に4社が申請し,通信方式は3社がモバイルWiMAX(関連記事3),1社が次世代PHS(関連記事4)を採用するとしている。数M~数十Mビット/秒と高速な無線通信サービスが提供される可能性がある。

「比較審査基準」はあるものの

 4社が申請したが,事業免許を与える企業は2社。4社のうちから,2社を選択しなければならない。総務省や電波監理審議会がその提出書類やヒアリングなどを踏まえて検討して12月中に決定する見込みである。

 電波を使う通信事業者の数は,競争促進と過当競争のバランスだけでなく,どのくらいの周波数幅をその事業に割り当てられるかという要素も絡む。サービス・エリアを効率よく展開したりするには周波数幅が多いほうがよいが,広く取りすぎると参入できる事業者の数が少なくなる。検討の結果,2社の参入を認め1事業者30MHzを割り当てることになった。

 2枠に4社が立候補している状態で,どのように判断できるのだろうか。4社が提出した事業計画は,いずれも総務省が申請を受け付けるにあたり示した開設指針(PDF)に沿っているだろう。したがって,明らかな優劣はつけにくい。

 開設指針には,3社以上が申請した場合を想定して「開設計画の認定の比較審査基準」が規定されている。事業計画の遂行の可能性が高いか,混信防止の技術が優れているか,などと定性的な基準を示しているだけ。定量的な基準を作れるわけでもないので仕方がない。

開設計画の認定の比較審査基準
一 開設計画の適切性、計画実施の確実性
 1 より広範な地域においてより早期に電気通信役務を提供するための特定基地局を配置する
   計画を有していること。
 2 開設計画に従って円滑に特定基地局を整備するための能力がより充実していること。
 3 電気通信設備の設置及び運用を円滑に行うための技術的能力がより充実していること。
 4 特定基地局の運用による電気通信事業を確実に開始し、かつ、継続的に運営するために
   必要な財務的基礎がより充実していること。
 5 電気通信設備の保守及び管理体制並びに障害時の対応体制がより充実していること。
 6 電波法、電気通信事業法その他の関係法令を遵守するとともに利用者の利益を確保して
   適切な方法により業務を行う体制がより充実していること。
二 混信の防止等
 1 既設の無線局等の運用又は電波の監視を阻害する混信を防止するためのより優れた技術
   を導入すること。
 2 既設の無線局等の運用又は電波の監視を阻害する混信を防止するための対策がより充実
   していること。
 3 小セル化及び空間多重技術の導入による収用効率の向上に資する技術その他の電波の能
   率的な利用を確保するためのより優れた技術の開発及び導入をする計画を有していること。
三 電気通信事業の健全な発達と円滑な運営への寄与
 1 本開設指針に基づく開設計画の認定を受けていない電気通信事業者による無線設備の利
   用を促進するためのより具体的な計画を有していること。
 2 1のほか、特定基地局を開設して電気通信事業を行うことが、電気通信事業の健全な発達
   と円滑な運営により寄与すること。

 このような基準で,総務省や審議会が非公開で検討するのであるから,どのような結果になっても疑問は出てくる。どのような理屈をつけようとも,“密室”“定性的な判断”となれば,落選する2社は納得できないだろうし,ユーザーなども「なぜ?」となるだろう。

“落選”は初めて

 今回のように予定枠数を超える数の企業から申請を受け,“落選”が生じるのは初めてのケースといえる。

 1984年に日本移動通信とDDIセルラー・グループの携帯電話事業参入を認めたのは政治決着。当初,郵政省(現・総務省)は1社もしくは2社の参入を予定し,トヨタなどをバックに持つ日本移動通信で決定,という見通しであった。しかし,当時の日米通商摩擦を解決するためのMOSS(市場志向型分野別協議)合意などをタテに米政府に押し込まれた形で決着した。

 次に携帯電話事業への新規参入を認めたのは2005年。そのときの総務省の指針は,1.7GHz帯/2.0GHz帯で計3社の参入を認めるというもの。申請したのは,ソフトバンクの子会社BBモバイル,イー・アクセスの子会社イー・モバイル,そしてアイピーモバイルの枠数と同じ3社。要件を満たしていたため,3社とも合格。携帯電話事業への参入が認められた(関連記事5)。2GHz帯参入への意欲を示していたウィルコムとライブドアは申請を見送ったため,波風が立たずに済んだ(関連記事6)。もっともソフトバンクは戦略転換してボーダフォンを買収,アイピーモバイルは破綻。結局,サービス提供まで至ったのはイー・モバイルだけであるが。

 今回の2.5GHz帯では,総務省や審議会はどのように議論して結論を出し,そしてどのように説明するのだろうか。落選した企業からしてみれば,年間1000億円以上を見込むビジネス・チャンスを逸するわけけで不満噴出は必至である。

 冒頭に述べた公開カンファレンスの開催は異例のことである。「各社の事業計画をオープンにして比較したうえで決定したなら納得できる」といっても(関連記事7),公開カンファレンスで公表された情報を見る限り明らかな差はない。個人の価値観による重みによって判断が分かれるだろう。好みに近くなる。それとも,あまり重要でないところに差異を見いだし,そこで優劣をつけるのだろうか。

国民共有の財産なのだから?

 だとしたら,国民投票で選んでみたらどうか。潜在ユーザーである国民に向けて,4社が事業計画をプレゼンテーションし,投票で決めるというやり方である。候補社になる前に資格審査として,総務省や審議会などで開設指針に基づいた事前審査を実施。その後,「わが社が事業を認められた場合は・・・」と事業計画のプレゼンを展開する。

 公開カンファレンスで公表された情報だけでも意味がある。サービス開始時期やサービス・エリア,そして料金などがわかる。さらにわかりやすくて安い料金プランや特徴ある端末を提供するなどといったプレゼンも出てくるかもしれない。電波周波数は有限であり,国民の共有の財産という考え方がある。この考え方からすれば,財産の使い方を所有者である国民に問うというのは理にかなっている。

 国民の財産だから,民間企業のビジネスのために無料で使わせるのはおかしいという考えもある。欧米のようにオークションで電波周波数を落札させたらどうかと。オークションは公平であり,国の財政が潤うというメリットがあるが,大資本の企業が有利になり,ベンチャー的企業の参入が難しくなるというデメリットがある。それに,落札した企業が電波を買うといっても,サービスの料金に転嫁してユーザーから回収することになる。間接的に,税金を徴収されている形になるし,国民共有の財産であるはずの電波の代金を国民が支払うことにもなり,納得できない。

 いまさら国民投票は無理であるし,投票方法はどうする?ということにもなる。ついでにいうと公職選挙法みたいなものがないと,とんでもないことになりそうだ。ほかに抽選という方法もあるが・・・。

 80年代ならば,申請前に調整したりできたかもしれないが,いまは状況が異なる。総務省の決定,その説明に注目したい。