前回に続き、テーマはリスク管理である。リスク管理の共通課題とは、リスクをできるだけ丁寧に事前に洗い出し、臆病なくらいに備えることである。それには五感を動員し、リスクの予兆に早めに気付く必要がある。

106日目●気付いたらリスク対策手を抜くな

 失敗プロジェクトを反省すると、リスクへの対応がまずかった例が多い。リスク自体を予測できなかった例もあるが、リスクには気付いたのに適切に対応しなかったために、まんまと罠にはまった事例もある。リスクは分かっても、その厳しさを十分感じない者もいるので、全員でリスクの影響度をレビューし、最も悲観的な者の意見を採用するくらいの対応が大事であろう。

 またリスクは分かっていても、後から何とかしようと先送りしているうちに対応が遅れてしまう例もある。リスクへの感度を高める努力をするとともに、気付いたリスクは必ず発生すると考え早くから備えることである。



107日目●初めてはしくじるものと覚悟せよ

 「初めてはすべて危ない」と考えて何らかの備えをしておきたい。まず、初めての顧客や、過去付き合いがある顧客でも責任者が新しい人に代わった場合は、慎重に対応する必要がある。

 初めて取り扱うなじみのない業種や業務も、一見やさしく見えても注意したほうがよい。未経験の業種・業務・機能を扱うときは、せめて似た分野の経験者を探して応援を求めたり、相談したりすることが大事である。

 また初めての開発環境、開発言語、開発ツールなどにも同様のリスクがある。新技術・新方式への挑戦は絶対必須ではあるが、慣れるまではむしろ混乱するのが世の中の常識である。

 さらに、初めての外注先に一括契約発注をしようとするときは、その実態をつかまないと危ない。海外発注も同様のリスクがあるので、一気にやらず徐々に拡大することが肝心だ。



108日目●突き詰めよこのシステムの必要性

 最もリスキーなシステムは、その開発・導入目的が不明なシステムである。目的がはっきりしていないと、人によって見方・考え方が異なり、仕様がなかなか決まらず、混乱プロジェクトになるリスクがある。

 現在では、一通りの業務はIT化が済んでいる。それだけに、特に稼働中のシステムを更改する場合は、更改目的が明解になっていないと、関係者の意見がばらつきがちで不必要に複雑になる傾向もある。そして紆余曲折の末、「無理に更改しなくても、今のシステムで何とかなるだろう」という経営判断が下され、新システムの開発中止という最悪の事態に陥りやすい。



109日目●挑戦も過去の2倍は要注意

 大規模システムのリスクは小規模システムのリスクより大きいことは誰でも分かる。しかし、アリスタ・コーバン氏は、『アジャイルプロジェクト管理』の中で、「大規模プロジェクトとは、それまでに管理に成功した最大プロジェクトの2倍の大きさを持つプロジェクトだ」という、素晴らしい定義をしている。プロジェクトの規模は、単に開発量や金額の絶対値ではなく、経験値の大きさに依存するということだ。

 例えば、1億円のプロジェクトで成功したからといって、次に2億円のプロジェクトを任せるのは危ない。チームのメンバー数も同じで、過去に10人しかまとめた経験がなければ、20人になると当人にはリスクが大きい。

 部下に過去の経験の倍以上のプロジェクトを担当させるときは、危ないと思い誰かに支援させたり、しっかりレビューさせたりする必要がある。