今回はリスク管理の共通課題を取り上げる。リスク管理はプロジェクト管理そのものといってもよいくらい重要なものだ。プロジェクトの各段階でそれぞれのリスクと向き合い、適切な対応を取らなければならない。

99日目●慎重に備えがあれば憂いなし

 プロジェクト管理の要諦は、悲観的に準備して備えを怠らないことである。新田次郎著『八甲田山死の彷徨』は、楽観的準備をした部隊と悲観的準備をした部隊での結果の差の大きさを痛切に教えてくれている。情報システムにおいても、深刻な事件はよく起こるので、悲観的に考え備えることが大事だ。逆に必死に備えれば、事態そのものが結果的に起こらないこともある。

 例えば、納期を絶対死守すべき機能と最悪遅らせても何とかなる機能に分け、いざ納期が守れないときには優先度の低い機能を簡単に切り離せるように設計しておいたシステムは、何とか納期に間に合った。逆にバックアップ電源まで用意したのに、現実に電源事故が起きたときにはバックアップへの切り替えに失敗した不幸な例もある。長い間電源事故がなく、事故時の操作訓練も不足していたため、操作手順が忘れられてしまっていたからである。

 不幸な事態は必ず起こるということを前提に、常に備えることが事態の回避につながる。



100日目●能天気備えなければ憂いなし

 一般に「備えあれば憂いなし」というが、逆の「備えなければ憂いなし」もまた真である。いったん備えようと決意して考え始めると、あれもこれも心配になり潜在リスクがよく見えてくるが、「大丈夫」「備えは十分」などと過信してしまうと、リスクのことなど気にもしなくなってしまうからだ。

 西暦2000年問題なども大騒ぎしたからこそ、次々と心配事項に気付き、地道に対策を打ったので何とか乗り切れたのだ。今日のシステム・トラブルは社会の混乱に直結する。心配性であることはSEの重要な資質である。



101日目●ピンチでも何とかなるさ想定内

 プロジェクトの推進過程では、しばしばピンチが訪れる。それだけに、あらかじめどういうリスクやピンチの可能性があるかを最大限リストアップすることが基本である。想定したリスクに対し何らかの準備があれば、起こってもあわてずにすむ。

 仮に、不十分な準備しかできなくても、想定内のピンチであればあわてずに対応できるので、被害はかなり軽減できるであろう。しょせん、完全な備えはできないだけに、せめてリスクやピンチを事前に読み切る努力は最大限しておきたい。

 そのうえで、周りや顧客にも、ある程度の理解と覚悟をしておいてもらえれば、ピンチに遭遇しても援助してもらえるだろうし、リスク軽減策を考えておいてくれる可能性も出てくる。



102日目●計画を立ててリスクを洗い出せ

 システム開発に入る前に、開発プロジェクトが抱えるリスクをまず洗っておきたい。各組織には、失敗の実績が残っているのだから、この経験をチェック・リストとして活用したい。

 また初めに全リスクを洗い切るのが理想であるが、プロジェクトの進行につれて判明してくるリスクや、新たに発生してくるリスクも考えられるので、リスク見直しの予定日も定め、工程表に明記しておきたい。

 工程表に明記しておけば、全員がリスクを見つけるきっかけになる。リーダーや上司にとっても、リスク見直し日を設定することで、リスクの見直しを公に宣言することになる。もはやサボれなくなり、自らをリスク管理に追い込むのにも役に立つであろう。