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判例で理解するIT関連法律

第13回 名誉毀損 不用意な書き込みは損害賠償の対象に

2008/01/10 日経SYSTEMS
出典:日経ITプロフェッショナル 2003年6月号140ページより
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
目次一覧

ITエンジニアは仕事柄,インターネット上の掲示板やメーリングリストを利用することが多い。しかし,簡単にできるからといって,不用意な書き込みは禁物だ。場合によっては名誉毀損で損害賠償請求を受けることもある。

 インターネット接続会社,ニフティが提供していた電子掲示板「現代思想フォーラム」内にある「フェミニズム会議室」で,ある女性翻訳者が中心的な存在として活発に書き込みを行っていた。彼女は,フェミニズムについての主張を述べた書き込みの中で「自分は2回予定外の妊娠をし,1回目は経済的な理由で中絶。2回目は相手の男性と結婚したが流産。その後,留学目的で米国に長期滞在し,その男性と離婚した」ことを明らかにしていた。この女性翻訳者は,同会議室で「Cookie」というハンドル名を用いていたが,Cookieが誰であるかは,多くの参加者が知っていた。

 この女性翻訳者と異なる意見を持つ大学講師が,「この女性は考え方を異にする会員を排除しフォーラムを私物化している」と考え,女性翻訳者を批判するうちに,「2度の胎児殺しや米国で不法滞在をした」,「馬鹿としか思えないペテン師女だ」などと,女性翻訳者をからかったり,誹謗中傷する書き込みを行った。

 女性翻訳者はこの書き込みが名誉毀損に当たるとして,1994年4月に,大学講師に対して損害賠償と謝罪広告を求める訴訟を起こした。同時に,「フォーラムの運営者(システム・オペレータ)とニフティにも名誉毀損の責任がある」として,システム・オペレータとニフティにも損害賠償を要求した。

 東京地方裁判所は,謝罪広告の必要は認めなかったが,大学講師に50万円の慰謝料を支払うよう命令(1997年5月26日判決,判例時報1610号22頁)。システム・オペレータとニフティに対してもそれぞれ10万円の支払いを命じた。

 システム・オペレータとニフティが控訴した結果,東京高等裁判所は損害賠償義務はないと判断した。一方,女性に慰謝料を支払うよう命令された大学講師も控訴したが,東京高等裁判所は「大学講師の書き込みは名誉毀損と侮辱に当たる」として,地裁の判断を認めた。(東京高等裁判所2001年9月5日判決,判例タイムズ1088号94頁)

 今回は,ネットワーク上の掲示板やメーリングリスト,ホームページでの名誉毀損を取り上げる。ネット社会では不特定多数の人に向けてクリック1つで自分の考えを発信できる。このため軽率な発信による名誉毀損行為が最近,急増している。

 ITエンジニアも,勉強会やユーザー・サポート,情報収集などで,メーリングリストや掲示板を利用することは多いだろう。だが,不注意な発言は相手を不愉快にさせるばかりか,場合によっては名誉毀損や侮辱に当たると判断され,損害賠償請求を受けることもある。こうしたことを避けるために,名誉毀損や侮辱に関する法律をしっかり理解しておこう。

名誉を害する書き込みは違法

 具体的にどんな発言が名誉毀損や侮辱に当たるのか。

 名誉毀損とは,「ある人間の客観的な社会的評価(名誉)を低下させる行為」を指す。冒頭に示したニフティ事件では,「米国の出入国法に違反した疑いが濃厚」,「胎児殺し」などの書き込みが名誉毀損に当たると,裁判所は認定した(図1)。

 一方,侮辱とは「自分自身の主観的な評価(名誉感情)」を害する行為を指す。ニフティ事件では,「あの女は乞食並み」,「馬鹿」などの書き込みが侮辱と認定された(図2)。

図1●ニフティ事件で名誉毀損と認定された書き込み(一部)
図1●ニフティ事件で名誉毀損と認定された書き込み(一部)
 
図2●ニフティ事件で侮辱と認定された書き込み(一部)
図2●ニフティ事件で侮辱と認定された書き込み(一部)

 名誉毀損行為は,民法における「不法行為」に当たる。また侮辱行為も,故意または過失行為があり,損害(名誉感情を害したこと)と行為との因果関係が明確であれば,名誉毀損行為と同じように民法の不法行為に当たる。ここで故意とは,「ある結果が発生することが分かっていながら,それを容認していた」心理的状態のことだ。また過失とは,「損害発生の予見が可能であったのに,これを回避する義務を怠ったこと」を言う。

 ネット上の書き込みが名誉毀損や侮辱による不法行為とみなされれば,損害賠償請求の対象となる。加えて名誉毀損の場合は,謝罪広告を出すことを命令されたり(名誉回復処分),書き込みを削除するよう命令される(差し止め命令)こともある。

 最近の判例では,名誉毀損行為を行った被告に対して裁判所が500万~1000万円もの支払いを命じたことがある。このように,日本では名誉毀損行為による損害賠償額は増える傾向にある。

 名誉毀損行為が「具体的な事実の提示」を伴っていれば,刑法の「名誉毀損罪」(230条1項)に問われることもある。有罪になると,3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処せられる。

表現の自由と名誉毀損

図3●憲法21条1項
図3●憲法21条1項

 個人の名誉は民法や刑法で手厚く保護されているが,その一方で,政治家を批判したり公共的な問題について発言する自由も保障する必要がある。これは,いわゆる表現の自由として,憲法21条1項が保障している基本的人権だからだ(図3)。では,どのような場合に,「表現の自由」と認められるのだろうか。


 裁判所は,ある人間の社会的評価(名誉)を低下させる発言や書き込みであっても,(1)公共の利害に関する事実にかかわっている,(2)提示された事実が真実であるか,または発言者が真実であると信じたことについて相当の理由がある,(3)もっぱら公益を図る目的で行われた――場合は,民法の「不法行為」にはならないという考え方を示している(最高裁判所1966年6月23日判決,民集20巻5号1118頁)。

 また刑法も,名誉を低下させる発言が「公共の利害に関する事実にかかわり,その目的がもっぱら公益を図るためのものと認められ,なおかつ真実であることの証明があったときはこれを罰しない」(230条の2),「公務員または選挙の候補者に関する事実についての発言は,真実であることが証明できれば名誉毀損罪にならない」(230条の2第3項)と定めている。次回はプライバシーや個人情報の保護について解説したい。

辛島 睦 弁護士
1939年生まれ。61年東京大学法学部卒業。65年弁護士登録。74年から日本アイ・ビー・エムで社内弁護士として勤務。94年から99年まで同社法務・知的所有権担当取締役。現在は森・濱田松本法律事務所に所属。法とコンピュータ学会理事

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