IT機器を構成する部品のうち,省電力化の動きが最も活発なのが,プロセサである。米インテルや米AMDといったプロセサ・メーカーは,2003年ごろから省電力化に向けた取り組みを強化してきた。ひたすら処理性能の向上を目指してきたプロセサは,それに比例して消費電力量や発熱量が徐々に増加しており,どこかで歯止めをかける必要性があった。

 メーカー各社はまず,ノートPC向けのプロセサとして,バッテリの持ちがよいということで省電力プロセサを開発,出荷を始めた。その後2005年ごろからは,サーバー向けのプロセサでも低消費電力を特徴の1つとして打ち出し始めている。例えば,インテルが2004年6月に出荷を開始したXeon(3GHz)のTDP(熱設計電力)は103Wだが,2006年6月に出荷した5000番台のXeon(3GHz)は,TDPを80Wに抑えている。

 ただ,処理性能向上のニーズは省電力化以上に高い。消費電力は現状を維持しつつ,処理性能を向上させるというのが,各メーカーの現状の戦略である(図1)。その取り組みの1つが,マルチコア化。プロセサを増やすのではなく,演算回路であるコアだけを増やす。動作周波数(クロック数)は増やさずに性能を向上させる。プロセサの消費電力は電圧と動作周波数によって決まるため,動作周波数を抑制すれば,それだけ消費電力も抑えられるわけだ。各社ともマルチコア製品の出荷を相次ぎ始めている。

図1●プロセサは2006年から,マルチコア化やリーク電力の削減による省電力化が進んでいる
図1●プロセサは2006年から,マルチコア化やリーク電力の削減による省電力化が進んでいる

新絶縁素材で無駄な電力を削減

 プロセサ単体の省電力化に最も効果があるとみられているのが,リーク電流つまり,トランジスタが無駄に消費している電力の削減である。プロセサの処理能力を高めるためには多くのトランジスタを搭載する必要がある。実装面積に限度があることから,トランジスタの微細化が急速に進み,プロセサあたり1億~2億のトランジスタを組み込むようになった。

 マルチコア化により,さらにその数は増加する傾向にある。その指標である,半導体製造時の配線幅は,AMDの場合2005年の90nmから,2007年に65nmに縮まり,それに比例してトランジスタも微細化。インテルは2007年11月に,製造プロセスを45nmにまで縮めた製品「Xeon5400番台」を出荷した。

 このような微細化の動きに伴って,リーク電流の増加も深刻化している。リーク電流は,トランジスタに電流を流す「オン」時ではなく,「オフ」時に流れてしまう無駄な電流のこと。トランジスタが微細化してしまったために電流を流す両端が短くなり,電流が流れやすくなってしまった(図2)。「65nmだと約50%はリーク電流に達する」(インテル 技術本部の秋庭正之アプリケーション・スペシャリスト)という指摘もある。

図2●インテルは2007年11月に発表した「Penryn」で,新素材を組み込んで消費電力を削減した
図2●インテルは2007年11月に発表した「Penryn」で,新素材を組み込んで消費電力を削減した

 いちはやく45nm製品を投入したインテルは,リーク電流を減らすために,絶縁体部分の素材を変更し,「High-k」と呼ばれる新素材を採用。ゲート部分の素材に銅を使った。これにより,リーク電流を10分の1以下に削減し,プロセサ全体では最大38%電力効率を向上させたという。

4つのコアの電力を個別に管理

 AMDも同様の技術開発は進めている。ただ同社が省電力化の効果を強調するのは,マルチコアにおけるコア制御技術の精度である。AMDは2007年8月にクアッドコアのOpteronプロセサで実装した,「AMD PowerNow!」によって無駄な電力を削減する。PowerNow!は,コアごとに電力を管理する機能である。4つのコアごとに必要な分だけ電力を供給するため,無駄な消費は小さくなる(図3)。

図3●同じクアッドコアでも,電力消費のメカニズムは異なる
図3●同じクアッドコアでも,電力消費のメカニズムは異なる

 このような機能は,現状のインテルのクアッドコア・プロセサにはない。この違いは,両社の製品アーキテクチャが異なるために生まれている。

 インテル製品は,2つのコアを組み込んだ1つの「ダイ」と呼ばれる半導体部品を2つ組み合わせて実装されている。そのほうが小さい面積で実装でき,不良品が減り,生産効率が向上するためだ。ただしその結果,ペアになった2つのコアが同じ動作周波数で動作する設計になっている。処理を実行する上で必要がないコアも同じだけ電力を消費してしまうわけだ。AMDはその点,ある程度の生産効率の低下もふまえた上で,当初から4つのコアを個別に管理するアーキテクチャを採用していた。

 そのほかにも,インテルやAMDは省電力化を進めている。機能の名称こそ異なるが,両社とも,使用されていない回路の電源を切る機能や,OSと連動して消費電力を制御する機能などを実装している。

プロセサの消費電力はサーバーの一部

 インテルやAMD以外のプロセサ・メーカーも省電力化を進めている。米サン・マイクロシステムズは,2005年12月に出荷を開始したUNIXサーバー製品に採用した「UltraSPARC T1」で省電力化を推進。8つのコアを搭載しながら,プロセサあたりの消費電力を73Wに抑えた。米IBMも2007年5月に出荷した「POWER6」のチップ設計手法を見直し,新たに,電圧と動作周波数を制御する機能などを組み込んだ。処理性能を高めながら,POWER5ど同程度の電力消費量に抑えたという。

 実際には,サーバーの消費電力のうち,プロセサが消費するのは3割~4割程度といわれている。それ以外にも,電源装置やファンなどの冷却装置,ハードディスクなどの部品が電力を消費しているためだ。単に省電力プロセサを採用しただけでは大きな効果は見込めないことになる。

 また,こういった部品を共通化したり,サーバーの構造を最適化することによる省電力化アプローチも始まっている。次回は,サーバーの動向に言及する。