2007年末, 携帯機器メーカーの業界団体である情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)に東京都から打診があった。「携帯電話の回収に, 都が協力することはできないか」──。法定のリサイクル義務のない品目の回収に, 自治体が協力を申し出るのは異例のことだ。
携帯電話の回収量は2000度年の1360万台をピークに下がり続け, 2006年度は約半分の662万台まで落ち込んでいる(図1)。年間約5000万台が出荷されることを考えれば, 回収率はわずか10数%に過ぎない(カコミ参照)。
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図1●携帯電話とPHSの回収量の推移 携帯電話とPHSの回収量は,2000年度の1361万5000台をピークに下がり続け,2006年度は662万2000台と半減してしまった。電気通信事業者協会の資料をもとに作成。 |
東京都環境局廃棄物対策部計画課の斎藤和弥課長は, CIAJに回収協力を申し入れた理由を次のように話す。「最近, レアメタルの有用性が声高に叫ばれている。携帯電話は1製品当たりのレアメタルの使用量が大きい貴重な資源であるにもかかわらず, 回収量が下がり続けている。こうした現状を見て, 行政として何かできないかと考えた」──。
都の担当者が真っ先に口にしたレアメタル。ここ数年でレアメタルと呼ばれる金属類の価格が世界的に高騰し, 最大の消費国である日本の製造現場では深刻な影響が出始めている。こうした現状に危機感を持った都が, 貴重なリサイクル資源である携帯電話の回収協力に乗り出したというわけだ。
なぜ携帯電話なのかと言えば, 次の数字を見れば納得がいくだろう。一般に, 1tの金鉱石から採取できる金の量は4~5g。これに対して, 1tの使用済み携帯電話からは, 金を150g, パラジウムを50g, 銀を1.5kg, 銅を100kg回収できる。携帯電話やパソコン, 家電などの電子機器を総称して「都市鉱山」と呼ばれるほどだ。
終わりの見えない資源価格の高騰
レアメタルの国際的な定義はないが, 日本では経済産業省がプラチナやニッケルなど31種類の金属をレアメタルに指定している(図2)。例えばネオジムはハードディスクの磁性材として, コバルトは携帯電話の充電池の材料として使われている。使用量こそ鉄に比べて少ないものの, 自動車や電子機器などの日本の基幹産業に欠かせない材料である。
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図2●経済産業省がレアメタルとして指定している31種類の金属 ネオジムはハードディスクの磁性材として, コバルトは携帯電話の充電池の材料として使われている。自動車や電子機器などの日本の基幹産業に欠かせない材料が多い。 |
そのレアメタルの国際市場価格が数年前から軒並み上がっている。2002年から2007年までの5年間で, ニッケルは約8倍, ネオジムは約6倍, タングステンは約4.7倍, プラチナは約2.5倍に価格が上昇した。新興国の台頭で, 自動車や携帯電話などの生産量が急速に増えて需要がひっ迫しているだけでなく, 中国やロシア, アフリカといった資源産出国が, レアメタルの生産や輸出を制限したり, 自国内での需要を優先する政策を取り始めたことが大きい。
特に, タングステンやインジウムなどを産出する中国は, 2006年から現在までに金属原料の輸出関税を4回にわたって引き上げ, 輸出抑制の姿勢を鮮明に打ち出している。
こうした国際情勢の中, 政府も産業競争力を維持する狙いから, レアメタルの安定供給確保に乗り出している。具体的には, (1)海外における探鉱開発および資源外交によって, レアメタルの供給源を多様化する, (2)自動車や電子機器などレアメタルを含む使用済み製品のリサイクルを推進する, (3)レアメタルの需要を緩和するために代替材料を開発する, (4)鉱山ストライキや事故などの短期的な供給障害に備えるために, レアメタルの備蓄量を増やす──などがある。
(2)の使用済み製品のリサイクルを促進し, レアメタルの回収が進めば, 価格高騰を抑える処方箋になる。事実, 液晶パネルの電極材に欠かせないインジウムは, 2002年から2005年までの3年間に, 国際価格が12倍に跳ね上がったが, 現在はピーク時の半値ほどに落ち着いている。国内の非鉄製錬会社がリサイクル能力を大幅に増強し, 国内需要に占める再生品の割合を6割まで引き上げた結果, 国際価格を下げる効果をもたらしたのだ。
「都市鉱山」も回収できなければただのゴミ
2008年1月11日,独立行政法人の物質・材料研究機構は, 産業連関表と工業統計を使い, 国内に蓄積されているリサイクル可能な金属資源の量を算定し, 公表した。これがなかなかインパクトのある数値だ。例えば,金が約6800t(世界の現有埋蔵量の16%), 銀が6万t(同22%), インジウムが1700t(同61.1%)となっている。この他にも, 錫やタンタルなど, 世界埋蔵量の1割を超える金属が多数あるという。だが, いかに埋蔵量が多くても, 回収して特定の場所に集積できなければ, ただのゴミである。
原油高によって鉱山開発のコストは増える一方であり,今後も資源価格の上昇基調は続くだろう。日本の産業が国際競争力を維持するには,使用済み製品や工程廃棄物などのリサイクルに取り組み,再生資源の活用を進めることが不可欠なのである。次回では, IT機器をめぐるリサイクルの現状に目を向ける。
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