チップからサーバーやストレージまで,情報システムのあらゆる単位で省電力化の動きが進んでいる。それは,情報システムを安定的に稼働させる設備であるデータセンターやサーバー室にも及んでいる。部品や機器の個別最適だけでなく,ファシリティから見直すことで,冷却効率や電源効率をより向上させることができる。

 これまでは安定性や耐震性,セキュリティの高さがデータセンターを選ぶ指標だった。サーバーの消費電力増加や,集積度の高いブレード・サーバーなどによる発熱量増加によって,温度管理や安定的な電力供給能力を求めるニーズが高まっている。「データセンターは,一定の処理能力を提供するだけでなく,それを提供する中で省電力化や発熱量削減の取り組みが不可欠になってきた」と,伊藤忠テクノソリューションズ(CTC) データセンター技術戦略室の赤木央一氏は指摘する。

冷気と熱気をコントロール

 実際,データセンターに変化が起こり初めている。

 ソフトバンクIDCが2006年秋に改修した,東京都新宿区にある「新宿データセンター」はその一例である。それまでのサーバー用スペースが手狭になったことから,オフィス・スペースをサーバー用スペースに改造。その際,電源設備を大容量化したほか,ソフトバンクIDCが考案した新開発のラック「ColdMall」を設置した。温度管理を容易にするためである。

 ColdMallは,サーバーに冷たい空気を効率的に供給するラックである(図1)。横に並んだラック列の間の空間を密閉し,下から冷気を送風する。サーバーは常に冷たい空気を取り込むことができる仕組みだ。

図1●ソフトバンクIDCが新宿データセンターに設置した「ColdMall」の仕組み
図1●ソフトバンクIDCが新宿データセンターに設置した「ColdMall」の仕組み

 従来のデータセンターでは,熱気と冷気が混じってしまうため,サーバー用スペース全体の温度を下げなければサーバーに冷気を供給することができない。そのため,冷却のためのコストが増加してしまっていた。ColdMallは,熱気と冷気を区分けすることで冷却効率を上げる。

 送り込む冷気は22度に保っている。「温度シミュレーションを繰り返した結果,供給する冷気の温度は22度~24度であれば,サーバーを十分に冷却できることがわかった。必要以上に空気を冷やすことで,電力を浪費しないよう配慮した」(ソフトバンクIDC 社長室経営企画部の山中敦ファシリティアーキテクト)という。

立体的に温度状況を把握

 日本IBMが2008年1月に千葉市に開設した「幕張データセンター」も温度管理に力を入れている。データセンター内の温度状況を把握するシステム「Mobile Measurement Technology(MMT)」を,国内のデータセンターで初めて配備した(図2)。世界でも5台しかないシステムである。

図のタイトル
図2●日本IBMの幕張データセンターは,世界に5台しかない「Mobile Measurement Technology」を配備した
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 MMTは,縦横約60センチメートル,高さ約3メートルの骨組みに取り付けた90個の温度センサーと,センサーからデータを取り込むパソコンを組み合わせた,移動式の分析システムだ。日本IBMのエンジニアは,これを移動させながらサーバー用スペースの温度を立体的に調査する。固定式の温度センサーよりも,細かく温度状況を把握できる。

 このほかに,ラックの背部に組み込んでサーバーが排出する熱気を冷却する「Rear Door Heat eXchanger」も導入する。日本IBMは国内のほかのデータセンターでも,同様の対策を進める方針だ。

 電源効率に着目し,ロスが小さいとされる直流電源への対応を表明しているのは,CTCが2008年秋に東京都文京区に開設予定の「都心型第三データセンター」である。通信事業者向けの交換機やルーターで使用されることが多い直流電源は,企業向けデータセンターではなじみが薄い。しかし,電力効率の良さから企業でも直流電源のニーズが高まると判断した。

 CTCの赤木氏は,「直流電源のユーザーは増えるとみているが,まだ少数派だ。現在主流の交流電源も用意する」と説明する。このほか,電力効率が高い空調機を採用するなどして,環境に配慮する予定である。