サーバーやストレージなど,ハードウエアの省電力化が進んでいる。消費電力を削減することにより,発電の際に排出される地球温暖化ガスの1つである二酸化炭素(CO2)の量を削減できる。これまでは性能や機能を重視して製品を選択していたユーザーも,消費電力が小さい製品に目を向け始めている。「サーバー製品を選択する際,消費電力に関する情報を求めるユーザーが増えてきた」(サン・マイクロシステムズ システムズ・ビジネス統括本部の関根俊夫本部長),「消費電力が小さいことは決め手にはならないが,同じ性能なら省電力なものを選ぶユーザーは増えている」(デル エンタープライズ マーケティング本部の桜田仁隆本部長)といった声もある。

 データセンターやサーバー室における消費電力が急増していることも,省電力機器へのニーズの高まりに拍車を掛けている。消費電力を抑えることよりも性能の向上を重視した製品が増えたことから,設置面積あたりの消費電力が,当初想定しているよりも急増。電力コストの増加はもちろん,電力の大量消費が招く発熱を制御することも難しくなってきた。電源容量を確保できなかったり,発熱の問題で,ラック・スペースは空いているのに,もうサーバーを設置するのは難しいという状況に陥るデータセンターもあるほどだ。

部品レベルから電力削減

 一口に省電力型ハードウエアといっても,消費電力を小さくするための手法はさまざまである(図1)。サーバーやストレージを構成する部品ごとに,さまざまな省電力化の技術開発が進んでいる。インテルやAMDが出荷している省電力型プロセサを採用することはその1つに過ぎない。メモリーやチップセットに省電力のための機構を組み込む動きもある。

図1●プロセサだけでなく,ITインフラのあらゆる機器や設備で,省電力化の取り組みが進んでいる
図1●プロセサだけでなく,ITインフラのあらゆる機器や設備で,省電力化の取り組みが進んでいる
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 そのほかにも,電源装置や冷却装置を改善したり,より消費電力が小さい部品を使ったりといった取り組みがある。こういった細かい技術的な対策を積み重ねることで,サーバーやストレージ単体の省電力化を実現しているわけだ。

 サーバーやパソコンを支える設備にも,省電力化の動きがある。データセンターやサーバー室の電力利用効率を向上させようという動きもある。また,仮想化技術を使ったサーバー統合や,ソフトウエアを使った電力管理も,消費電力の削減に役立つとみられている。

 これらの省電力化の動きをまとめると,3つの方向性が見えてくる(図2)。1つは,ある程度の電力を消費するのはやむを得ないとしても,なるべく効率よく消費しようという試みである。例えば,パソコンなどに組み込まれている電源装置は,直流と交流の変換や電圧制御の際,20~30%の電力をロスしている。この割合を小さくすれば,消費電力を削減できる。

図2●IT機器の省電力化には,主に3つの方向性がある
図2●IT機器の省電力化には,主に3つの方向性がある
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 2つめは,冷却効率の向上である。先述のロスした電力の一部は,熱となって消費され,パソコンやサーバーの発熱量を増やしてしまう。IT機器を安定して稼働させるためには,一定温度以下に冷却しておかねばならないため,冷却装置も多くの電力を消費する結果になる。いかに無駄なく効率的にIT機器を冷やすかを検討する必要がある。

 3つめは,IT機器の台数そのものを削減する取り組みだ。IT機器の消費電力を小さくするのとは異なるアプローチだが,大きな効果が見込める。米VMwareやマイクロソフトの仮想化ソフトが普及したことにより,技術的にも現実的な手法になった。実際,米IBMは2012年までに経理システムを仮想化技術を利用して3900台あるサーバーを統合して台数を減らし,消費電力を80%削減する計画だ。

ITベンダーも省電力化に本腰

 大手ITベンダーは2006年末以降,消費電力が小さいハードウエアを相次いで出荷し始めた。現時点ではやや外資系ベンダーのほうが先行しているようだ。日本IBMや日本ヒューレット・パッカード(HP),デルなどは,サーバー新製品の特徴の1つとして省電力をアピールする。IBMは2007年11月に,PCサーバーやメインフレームなど複数のハードウエアの消費電力を管理可能なソフトウエアを出荷。デルも2007年11月に,負荷に応じて使用電力をコントロール可能なPCサーバーを出荷している。これらはまだ国内ベンダーの製品にない機能である。

 ただ,国内ベンダーも2006年末から本腰を入れ始めている。富士通は従来製品よりも消費電力を39%削減したPCサーバー「PRIMERGY TX120」を2006年12月に出荷。NECも小型化により消費電力を30%削減したラックマウント型PCサーバー「Express5800 iモデル」の新版を10月に出荷した。日立製作所も,同型製品より23%消費電力が小さい「HA8000-esシリーズ」を10月から市場に投入した。

 また,日立とNECは全社体制で省電力に取り組むプロジェクトを開始している(表1)。日立は,2007年10月に日立グループ全体でデータセンターにおける消費電力を2012年までに半分に削減する計画「CoolCenter50」を発表。空調から電源装置までを扱うグループ会社のノウハウを集める。IT製品についても,11月に発表した「Harmonious Greenプラン」で,省電力化を進めて2012年までに33万トンのCO2を削減する計画を明らかにしている。

表●主なベンダーの省電力プロジェクト
ベンダー 日本IBM 日立製作所 NEC
プロジェクト名 Project Big Green CoolCenter50,Harmonious Greenプラン REAL IT COOL PROJECT
発表 2007年5月 CoolCenter50は2007年9月,Harmonious Greenプランは2007年11月 2007年11月
主な目標 グローバルにおけるIBMのCO2排出量を2012年までに,2005年度比で12%削減 CoolCenterは,日立グループのデータセンターにおける消費電力を2012年までに半分に削減。Harmonious Greenプランは,日立IT製品の消費電力を減らし,2012年までに33万トンのCO2を削減 IT機器の消費電力を50%削減し,2012年までにCO2排出量を累計で91万トン削減
主な取り組み 2012年までに経理システムを統合して3900台あるサーバー数を減らし,消費電力を80%削減する。また,年間10億ドルを投じ,エネルギー効率化技術やサービスを開発する IT機器やソフトウエアはもちろん,空調機,変圧器なども含めて消費電力を削減する技術を開発。製品に実装し,自社のデータセンターでも利用する IT機器の消費電力を削減するほか,消費電力を制御するソフトなどを開発。設備機器を電力効率よく運用するサービスを提供する

 NECも2007年11月,「REAL IT COOL PROJECT」と銘打ち,IT機器の消費電力を50%削減し,2012年までにCO2排出量を累計で91万トン削減すると発表している。それだけ,本腰を入れて省電力化に向けた技術開発を進めるという意思表明である。

 では,具体的にサーバーやストレージなどがどのように変化し始めているのか,次回からみていく。