ソニーが11月に発売する「BRX-NT1」は,テレビ向けとパソコン向けの7種類のIPTVサービスに対応したセットトップ・ボックス(STB)だ。従来はサービスごとにSTBを用意する必要があったが,BRX-NT1ではこうした不便を解消した。IPTV市場が拡大する一つのきっかけになるかもしれない。

写真1●複数のIPTVサービスに対応したソニーのSTB「BRX-NT1」
写真1●複数のIPTVサービスに対応したソニーのSTB「BRX-NT1」
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 テレビにIPネットワーク経由で映像を配信するIPTVサービスは,現状ではサービスごとに専用のSTBが必要である。ユーザーが様々なサービスを手軽に楽しめるようにはなっていない。

 ソニーが11月20日に発売するSTB「BRX-NT1」(予想実売価格は2万9800円)は,こうした不便を解消する可能性を持った製品だ(写真1)。1台のSTBで「オンデマンドTV」のほか「アクトビラ ビデオ」など7種類のIPTVサービスに対応する(表1)。複数のIPTVサービスに対応したSTBは日本で初めての製品となる。ただし一部サービスはサービス事業者と有料契約が必要だ。


表1●各サービスでバラバラな仕様に対応
テレビ向けのサービスだけでなく,パソコンを対象としたサービスに対応する点も特徴だ。各サービスの仕様は日経コミュニケーション調べ。
テレビ向けサービス
サービス事業者「サービス名」 アクトビラ「アクトビラ ビデオ」「アクトビラビデオ フル」 オン・デマンド・ティービー「オンデマンドTV」 USEN「GyaO NEXT」
映像形式 MPEG-2,MPEG-4 AVC,H.264 MPEG-2,H.264 VC-1
DRM Marlin 独自 Windows Media DRM
伝送路 オープン網 閉域網(Bフレッツ限定) オープン網
パソコン向けサービス
サービス事業者「サービス名」 ソニー「アイビオ」 USEN「GyaO」 クラビット「クラビット・アリーナ」 クラビット「Gクラスタ」
映像形式 Flash Video WMV WMV WMV
DRM なし Windows Media DRM Windows Media DRM Windows Media DRM
伝送路 オープン網 オープン網 オープン網 オープン網
DRM:デジタル著作権管理  WMV:windows media video

 ソニーのテレビ・ビデオ事業本部技術企画部IPTVプロジェクト室の岩渕昌史戦略企画マネージャーは「ユーザーにとっては,一つのIPTVサービスだけではコンテンツが物足りない。複数のサービスに対応すれば視聴できるコンテンツの数が大幅に増える」と製品化の狙いを語る。IPTVはまだ市場が立ち上がっていないため「保険として複数のサービスに対応した」という意図も見える。

 BRX-NT1ではテレビ向けだけでなく,「GyaO」や「クラビット・アリーナ」などパソコン向け映像配信サービスをブラウザでテレビに表示する機能も持つ。「コンテンツが急速に拡大しているパソコン向けサービスをテレビでも楽しんでもらいたい」(岩渕マネージャー)という狙いがある。

力業で各種サービスに対応

 これまで複数のIPTVサービスに対応したSTBがなかったのは,サービスごとに仕様がバラバラだったから。開発に手間とコストがかかるため,メーカーが敬遠していたのだ。ソニーはBRX-NT1に手間とコストをかけ,新しい付加価値を生み出すために“力業”で複数サービスに対応した。

 BRX-NT1がサポートするIPTVサービスで,映像形式や利用するDRM(デジタル著作権管理)などはまちまちだ。「共通部分はいくつかあるものの,基本的には各サービスごとに作り込んでいる」(岩渕マネージャー)。

 IPTVでは通信事業者や家電メーカー,テレビ局などで構成する「IPTVフォーラム」で,端末の標準化が進んでいる。各社でバラバラな仕様では,サービス事業者にもメーカーにも負担が多いからだ。2008年内にもIPTVフォーラム仕様の製品やサービスが登場する見通しだ。

 標準化の動きと合わせてBRX-NT1の登場は,市場がなかなか立ち上がらないIPTVを身近にしてくれる一つの動きになるかもしれない。