米IBMがビジネスモデルを大きく変革しようとしている。今後数年をメドに、コンサルティングからシステムの構築・運用までのすべてを統一し、世界中のリソースから選んだ最適解を提供できるようにする。その実現に向け、徹底した“IBM標準”の浸透を図る。

写真1●インドを訪問しIBMインドの社員と交流したサミュエル・パルミサーノ会長兼CEO(2006年6月)
写真1●インドを訪問しIBMインドの社員と交流したサミュエル・パルミサーノ会長兼CEO(2006年6月)
データセンターや研究開発設備に対する大規模投資を明らかにした

 梅雨空が続く2006年6月9日、東京・虎ノ門にあるホテルオークラに、米IBMのサミュエル・パルミサーノ会長兼CEO(最高経営責任者)の姿があった。日本の名立たる企業のCIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)を前に、「Innovation That Matters~なぜ今イノベーションが重要なのか?」と題した講演を行うためだ。

 パルミサーノ会長が日本で公式の場に現れるのは、02年の会長就任後では初。講演開始を固唾を飲んで待っていた顧客や報道陣に対し、登壇したパルミサーノ会長の講演内容は、来日直前にインドで開催した「The IBM Global Briefing」の内容に終始した。

 インドのバンガロールで開かれた講演には、現地社員の4分の1に当たる1万人が参加。その場には、インドの首相も同席した。パルミサーノ会長はその場で、インドへの投資を3年間で、これまでの3倍に当たる60億ドル(約6700億円)に拡大すると宣言するなど、インドへの注力を印象付けた(写真1)。


全世界の人材と設備をプール

 日本での講演でパルミサーノ会長は、「IBMインドの社員の平均年齢は24歳。一方で、2020年に日本人の30%が65歳を超えてしまう。若い元気な就労者がいなければ経済成長は難しい。ネットワークの発達により、世界の国々がつながり経済活動の基盤が“フラット化”してしまった。もはや特定の地域を守るという時代ではない」と指摘した。参加者の多くには、「米IBMは日本を軽視し始めた」と映ったかもしれない。

 しかし、パルミサーノ会長が真に訴えたかったことは、IBM自身が“フラット化”するということだ。すなわち、全世界170カ国、約33万人の従業員を抱えるIBMのすべてのリソースを一元管理し、全体最適を図る。パルミサーノ会長は、「世界中の能力をオンラインで活用する時代がやってきた」と強調する。

 すでにIBMは、人材はもとより、データセンターやコンタクト・センターなどの設備や各種ノウハウ、技術や実践事例など、あらゆるリソースを一元管理するためのデータベース構築に取り組んでいる(図1)。この構想が完成すれば、顧客企業はIBMが全世界にもつ同一水準のリソースから、最も優れたものを選択し、利用できることになる。日本IBMの大歳卓麻社長は、「地球レベルでの最適化が、顧客の価値向上には必要不可欠だ」と話す。

図1●IBMが全世界で進める“フラット化”
図1●IBMが全世界で進める“フラット化”