都道府県CIOフォーラム会長/佐賀県CIOの川島宏一氏による講演「地方政府におけるCIOの役割り ~公民連携によるイノベーション~」の要旨をお伝えする。の講演は、11月22日に早稲田大学で開催された「国際CIO学会 秋季研究大会」で行われたものである。(構成:黒田隆明=日経BPガバメントテクノロジー)


講演する川島CIOの写真
都道府県CIOフォーラム会長/佐賀県CIOの川島宏一氏

 現在、地方自治体を取り巻く4つの大きなトレンドがある。

 まず、「経済のグローバル化」。例えば、佐賀県産のイチゴが栃木県のイチゴと香港マーケットで競い合っているという状況がある。佐賀県から産出されるいろいろな財やサービスがグローバルの中でどういっ位置にあるのか、どういった情報発信、ポジションをとっていくのか、常に留意していなくてはならない。

 次に「地方分権化」。公共サービスの提供主体としての地方自治体は、より効果・効率を上げることが要請されている。

 そして「民営化」。行政から民へとサービスを移管するプロセスを立案して実際に移していくという役割りが、特に都道府県においては求められている。

 4つ目は「ICTの発達」。地域社会において、多くの地域住民が直接意見を言えるチャネルが増えてきている。行政サービスそれぞれの範囲や質について、より専門的な、突っ込んだ議論ができるようになってきた。これに対応する新しい地域統治形態の設計が求められている。

 こうした状況の中で、組織横断的なプロジェクトをITというバックグラウンドをもって現実の実行レベルに落とし込もうとした場合、テクニカル面、経済面、制度面における説得力を持たなくてはならないのはもちろんだが、それだけではなく、他部署や民間企業などの人々との連携をするには、イノベーティブなインパクトを与えないと組織はなかなか動かない。地方自治体のCIOは「Chief Information Officer」ではなく、「Chief Information & Innovation Officer=CI2O」になる必要があるし、ならざるを得ない。

プロジェクトマネジメントの強化がポイント

 佐賀県の場合、CIOの公募段階からミッションがはっきりしていた(関連記事)。そのミッションを達成するために具体的に組織としてどう動くのか。

 現在佐賀県では、業務の目標、現状、目標と現状の間にある困難要因、その要因対策を誰がどうやっていつまでに取っていくべきかという、いわゆる「見える化」の作業を行っている。要因を分析して導き出されたそれぞれの課題への対策は、具体的になったそれぞれの対策の実行者にコミットをしながら対策の完了日程を決めて活動を進める。

 ここで問題になるのがマネジメントの力だ。個々のライン(執行部門)の仕事を動かそうとする場合、チーム全体のモチベーションをどうやって上げていくのか。CIOは、そのためのプロジェクトマネジメント技術についても、(ICTの推進と併せて)強化しなくてはならないと考えている。

民間の力を得て行政サービスの改善を

 私は常々、情報化関連の公共施策は本当に住民に対して価値や満足を生み出しているのか、疑問に思っていた。本当にニーズに基づいて施策が体系化されてきたのだろうか。マーケティングをもっと強めないと、現在行われている行政施策は最終的な住民価値にはつながらないのではないかという懸念がある。

 そこで佐賀県ではいくつかの試みをしている。一つは「協働化テスト」。もう一つは「民間企業・団体等との共同研究(イノベーション“さが”プロジェクト)」である。

 「協働化テスト」は昨年度から行っている取り組みで、2000を超える県のすべての事業について、業務委託・民営化等を検討するというもの。各業務内容について、できるかぎり分かりやすい文章でドキュメントとして公表し、民間企業、NPOなどの方々に「その事業をそのコスト、成果目標、スケジュールでやっているなら、我々の方が住民価値を生み出せる」という提案があれば出していただく、というもの。もし出てきた提案について行政が「勝てない」ということになれば、行政の予算を外に出すか、事業を止めて民営化する。昨年度は371の提案のうち197の提案を採択した。

 「共同研究」は、今年度4分野を採択した。「無線技術を生かしたユビキタス・ブロードバンド環境の構築」「地域サービスポータルの構築」「最先端電子県庁システムの調達手法の検討」「情報システムの資産評価」である。

 「無線技術を生かしたユビキタス・ブロードバンド環境の構築」では、条件不利地域(離島、山間部)での信頼性、コストなどについて先行的に共同研究を行う(関連記事)。「地域サービスポータルの構築」では、地域で必要な情報・サービス・製品をワンストップで提供できるポータルサイトを民間ベースで構築していこうとしている。「最先端電子県庁システムの調達手法の検討」についてはパフォーマンスベースの契約について、「情報システムの資産評価」については民間企業との比較について、それぞれ民間企業と共同研究を開始した。

 こうして行政サービスの改善をしていくうえでポイントとなるのは、できるだけ正確で分かりやすい形で情報を公開すること、そして、民間の方々とのコミュニケーションを図りながら新しいサービスのコーディネーション、コンサルテーションのできる人材を育成することだろう。

「船の櫓を漕ぐ行政から舵を取る行政へ」

 最後に、今後の行政と地域社会との望ましい関係とCIOの役割りについて話をしたい。今後の行政の役割りは、特に県のレベルでは、地域経済の雇用、産業構造の舵取りに、よりシフトするということになるだろう。「船の櫓を漕ぐ行政から舵を取る行政へ」(クリントン政権の行政改革の標語の一つ)ということである。そして、企業、県民とのコミュニケーションを活性化させるための触媒としての役割りをどこまで果たせるか。その際の、たとえば契約時などにおけるルールキーパーとしての役割りが高まってきている。

 CIOの役割りについては様々な議論があるが、佐賀県のCIOとして私の仕事は「県庁の情報化」「県庁の業務改革」「地域情報化」「地域IT産業育成」だ。この4分野で、できるだけ重複効果が出る政策コンポーネントをつくっていくという視点で仕事を進めている。

 地方自治体のCIOは、トップとの関係、住民との関係、県の組織全体との関係が非常にダイナミックなものとなる。このようなプロフェッショナルな職能分野の社会的認知、評価が高まり発展していくことが、公共サービスの向上に役立っていくと思う。(談)