最重要のテーマであると大合唱が起きている「グリーンIT」,しかし本当に重要な話なのか?疑い深い「経営とITサイト」編集長と,環境問題に長く携わり特番サイト「グリーンIT」を担当している高木邦子記者(ITpro編集部所属)が議論する。

Y 何だかとても忙しそうですが,Enterprise談話室の対談に付き合って欲しいのですけれど。ITの世界の2007年を振り返って見ると,何が一番印象的でしたでしょうか。

K とても忙しいです。理由ははっきりしていて,「グリーンIT」の特番サイトを作っているからです。2007年のマイテーマは,このグリーンITですね。

Y うーん,環境問題ですか。正直言ってよく分からない話なのですが。地球温暖化はそれほどの大問題なのでしょうか。

K 「経営」の二文字が入っているサイトを編集している責任者がそんなことを言っていてはそれこそ大問題ですよ。温暖化問題に配慮しながら経営をしていく,というのは,電力や鉄鋼などエネルギー多消費型産業の経営者にとってはもう10年以上前からの常識です。

Y そう言えばKさんはITproに来る以前,環境経営フォーラムという環境問題に取り組む企業組織の仕事をされていましたね。そうした背景で見ると,ITの世界は遅れているのですか。

K 遅れているというより,もともとITが環境に与える負荷はあまり大きくないとされていたので,他の産業と比べると,あまり対策をしていなかった,ということではないでしょうか。

Y よく分からない点の一つはそこなんです。確か,日本全体の電力消費量約1兆kWhのうち,IT機器による電力消費量は約500億kWhで,5%程度に過ぎないのではないですか。

K ええ,2006年度で5%くらいでしょう。

Y 5%を削減して本当に貢献につながるのでしょうか。今やるべきは,次のビジネスを考えて,それに必要なITに積極果敢な投資をすることではないかと。この際だから言ってしまうと,少々環境に負荷を与えたとしても,前向きなことをやるなら許容すべきではないかと思うのですがいかがですか。

K それは一歩間違うと,公害を少々出しても,工場をフル稼働させたほうがいい,という理屈になってしまいますね。まず,なぜ今,グリーンITが注目されているかを考えてみましょう。確かに,今は5%なのですが,IT関連の電力消費は毎年急増しており,このままいくと2025年には約5倍の2400億kWhになると経済産業省の研究会が推測しています。多くの産業が環境対策に注力している中,今,絶対量が少ないからと言って,まったく対策が打たれていない,ということではまずいでしょう。なぜそれほど,グリーンITを疑うのですか。

Y なぜ絡んでいるかと言うと,内部統制報告制度を巡る騒動と似ているような気がするからです。

K 社会的責任という範疇には両方入りますね。

Y いや,そういうことではなくて,世の中の動きが似ていると思うのです。法律ができたり,お役所が取り組みましょう,と言い出して,それに応じてITベンダーが一斉に動き出す。そしてユーザー企業に問答無用で「取り組め!」と迫る。別に商売最優先というつもりはないですが,ビジネスとグリーンIT,ビジネスと内部統制,という両方をにらんで対策を講じるべきではないかと。

K グリーンITの法律って,2006年4月に施行された温暖化対策法と改正省エネ法のことでしょうか。省エネ法では,エネルギーの使用量が大きい工場とオフィスに省エネの取り組みやエネルギー使用量の報告を義務づけており,特にオフィスではIT機器の電力消費がターゲットになりつつありますね。

Y もう一つ気になるのは,ITベンダーの動きです。あまりにも素早いというか,横並びというか。内部統制の話が盛り上がった時,ソフトウエアやサービスはまだしても,「内部統制報告制度に関する法律に対応した記憶装置」を売り出した企業があって驚きました。グリーンITも同じようなことになりませんか。

K 確かに,消費電力を抑えたハードウエア,システム全体の電力消費を抑えるための運用管理ソフトウエア,データセンターの空調・電源設備を効率的に運用するファシリティ・サービス,さらに省電力コンサルティングサービス,といったようにグリーンIT関連の製品やサービスは沢山出てきています。それぞれの製品やサービスは,的を射たものだと思います。もちろん,こうした製品やサービスを組み合わせて運用していかないと,グリーンの効果は出ないわけですけれど。

Y うーん。低消費電力とか,仮想化とか,システム管理とか,各論については仰る通りと思うのですが。それを環境対策でまとめられると無理があるように感じるのです。とはいえ,グリーンITは2008年も引き続き話題のテーマなのでしょうね。

K そう思います。「データセンターの消費電力を今後5年間で50%削減する」,「ITプラットフォームの消費電力を2012年までに50%削減する」など,ここにきてベンダー各社がCO2削減目標を宣言していますが,具体的な製品投入はこれからが本番です。ベンダーの宣言通りに省電力なIT環境が実現するか,来年も注視していく必要があるでしょう。