Googleが携帯電話市場への進出を急速に進めている。この11月5日,携帯電話に載せるソフトウエアのプラットフォーム「Android」を開発すると発表し,同時にこのAndroidを搭載する携帯電話の開発を後押しする業界団体「Open Handset Alliance(OHA)」を発足させた。世界の有力企業34社が参加し,2008年後半の製品投入を目指す(関連記事:Google,モバイル・プラットフォーム「Android」の開発に向け33社と提携)。

 そして今,海外メディアがしきりに報じているのがGoogleによる無線周波数競売の参加である。果たしてGoogleのこの展開は何を意味するのだろうか。今回は海外の各種メディアやITproのこれまでの記事を確認しながら同社のモバイル市場への取り組みについてレポートする。

「Google Phoneよりも野心的」

 かねてからGoogleが米Appleの「iPhone」のような携帯電話を発表するのではないかとうわさされていた(Google PhoneやGPhoneと言われていた),しかし11月5日に発表したのは,電話機ではなくソフトウエア・プラットフォーム。Androidは,OSをはじめ,ミドルウエア,ユーザー・インタフェース,アプリケーションなど,携帯電話に搭載するソフトウエア一式を提供するというもの。Googleはこれらをオープンソース・ライセンスのもと無償公開し,メーカーや開発者に自由に使ってもらう。また世界の開発者にもアプリケーションの開発を促していく(関連記事:賞金総額1000万ドル,GoogleがAndroid対応モバイル・アプリ開発コンテスト)。

 Google会長兼CEOのEric Schmidt氏はAndroidを「Google Phoneよりも野心的」と表現した。同社はこの取り組みで,これまでメーカーやベンダー間にあった技術の垣根や縛りをなくし,またライセンス料をとらないことで,低価格の端末/新サービスを迅速に市場投入できるようにする。Googleの狙いはもちろん,そうした携帯端末の普及である。Android搭載の端末が世界中に広まることで,同社のネット・サービスをパソコンだけでなく,世界中の携帯ユーザーにも利用してもらいたい考えだ。

MS,Nokia,Apple,Sunは不参加

 米Intelや米Sprint Nextel,米eBay,韓国Samsung,中国China Mobileなど,Androidの業界団体OHAにはそうそうたるメンバーが名を連ねている。日本からもNTTドコモやKDDIが参加した(OHAの参加企業リスト)。

 ただしAndroidは,こうした大手の既存ビジネスと真っ向から競合する可能性を持っており,その将来性は未知数である。例えば今回,米MicrosoftやフィンランドNokia,米Apple,米Sun Microsystemsは参加していない。この4社はいずれも,OSをはじめとする携帯端末のプラットフォーム分野でそれぞれ独自の技術を持つ企業。例えばMicrosoftには「Windows Mobile」がある。Nokiaは出資する英SymbianのOS搭載スマートフォンで業界トップの地位にある。Appleは独自ハードウエアに独自のソフトを組み込み付加価値やブランドを高めているといった具合。またSunについては,Androidが採用するJavaを巡って今後一波乱あるかもしれないと伝えられている。ライセンスや仕様の問題が浮上してくる恐れがあるのだ(InfoWoldの記事,関連記事:【続報】Androidアプリの記述言語はJava、ランタイムの仮想マシン「Dalvik」は自ら開発)。

 またAndroidが今後どんな展開をするのか,まだ明確なものが示されていないのも事実。歓迎すべきものか,ライバル視しなくてはならないものか判断できない。そんな状況が,各社に静観を決めさせているようである(関連記事:IP電話サービスも追加へ,MSがWindows Live正式版を開始)。

Google Phoneの一番乗りはHTC?

 OHAの参加メンバーについても同じことが言えのかもしれない。というのも,各種メディア報道によると,OHAには,Android搭載製品を市場投入しなければならないという強制力はない。

 つまり,Intelや米Texas Instruments(TI)は参加しているものの,こうした業界トップシェアの企業がどの程度積極的に取り組んでいくのか現在のところまったく分からないのだ。

 実はOHAの代表企業は,Googleに加え,米Qualcomm,米Motorola,ドイツT-Mobile,台湾HTC(High Tech Computer)で構成する。今回の発表も4社とGoogleの共同声明という形で行われており,今後中心となって積極的に活動するのはこれら5社ということになる。

 このうち,T-MobileはDeutsche Telekom子会社で,欧州と米国で携帯電話サービスを展開している無線通信事業者。世界的に有名な多国籍通信事業者ではあるが,そのシェアは英VodafoneとスペインTelefonicaに次ぐ3位だ。T-Mobileの米国法人T-Mobile USAは,料金の安さと相次ぐ新機能/サービスの投入で,若者を中心に人気があり,顧客満足度も高いが,米国におけるシェアは第4位。ライバルには米AT&Tや米Verizon Wirelessがいるがこの2社はOHAには参加していない。

 またQualcommとMotorolaについてもT-Mobileと同様ナンバーワンではない。Qualcommは世界的なCDMA技術のチップ・メーカーだが,半導体業界でのシェアではIntelやTIに次ぐ規模。Motorolaも同様に世界的な携帯電話メーカーだが,この市場で圧倒的な差で世界ナンバーワンを誇っているのはNokiaである。

 そして台湾のHTCは,かつてOEM(相手先ブランドによる製造)が中心だったスマートフォン・メーカー。今業績が急速に伸びており,世界市場での躍進を狙っている。Windows Mobile搭載のスマートフォンなどを手がけているが,今後はAndroidベースの端末の投入で,一気にシェアを拡大したい考えだ。事実HTCは,Androidの発表があった翌日,すでに端末を開発中だと表明。2008年後半に製品を市場投入するという計画を明らかにした。どうやらOHAの設定した製品化時期の目標は,このHTCの計画のことだったようである。Google Phoneの一番乗りはHTCということになりそうだ(InfoWorldの記事)。