前回はうつ病について解説したが,実はメンタルヘルス不調にはうつ病のほかにも様々な病気がある。

 表2は,「WHO(世界保健機構)」によるメンタルヘルス不調の分類だ。WHOはメンタルヘルス不調を11種類に分類している。症状性を含む器質性精神障害,成人の人格および行動障害などだ。

表2●WHOによるメンタルヘルス不調の分類
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表2●WHOによるメンタルヘルス不調の分類

 WHOの分類は,用語が難しいことなどから,一般にはまだなじみがない。日常的には「精神病」,「神経症」,「心身症」という3つの分類を用いることが多い。そこで,この3つの分類に従って,主な症状を説明しよう。

(1)精神病

 精神病とは,幻覚,妄想などの精神病症状が出る病気のことである。

 精神病の代表的な疾病は「躁うつ病・うつ病」と「統合失調症」だ。いずれも「脳の機能障害」だが,病気を引き起こす原因はいまだに解明されていない。ただし,多くの精神科医は「現在の医学が持っている検査技術のレベルでは把握できないが,技術が進歩すれば必ず脳に何らかの機能障害が発見できる」と確信している。

 精神病症状は,躁うつ病・うつ病と統合失調症のほかにも,脳腫瘍や脳炎,脳梅毒などの脳の器質性障害(医学的検査で形態的異常が見られること),あるいはアルコール,麻薬,覚醒剤などの化学物質による精神障害でも現れる。

 うつ病については先に説明したので,ここでは躁うつ病の「躁状態」と統合失調症について簡単に説明しておく。

 躁状態は,見かけ上「生命のエネルギーに満ち溢れた」状態である。頭の中には次々に考えが浮かび,それをすべて口にするため,極めて多弁となる。眠気も感じなくなるので夜中に起きていることが多い。このため,相手の迷惑など顧みずに夜中でも電話をかけて延々と話す。

 躁状態の人の話には一貫性がないので,聞いている人はその“おかしさ”に気付くことが多い。しかし聞き手が“おかしさ”を指摘しても,それを無視して話し続けたり,指摘に対して怒りをあらわにして反論したりする場合も少なくない。

 躁状態は,「会社に迷惑をかける行動をする」,「多額の買い物をする」,「性的な行動が逸脱する」など,その人の「社会的名誉」にかかわる問題を引き起こす危険性が極めて高い。このため,なるべく早く精神科医を受診し,薬物治療を行うことが必須だ。入院が必要になることも多いので家族の支援も欠かせない。

 一方の統合失調症は,幻聴,身体感覚の幻覚,妄想,させられ体験による行動異常,引きこもりなどが現れる病気である(表3)。初期状態では,「抗精神病薬」と呼ぶ一群の薬が比較的よく効くが,長期化するにつれて,意欲や外界に対する関心の低下が目立ってくる。そうなると,自立した社会生活を送ることは難しい。このため,病気を早期に見つけ薬物治療を積極的に行うことが必須となる。薬の効果が持続すれば,通常の業務はほぼ発病前のレベルで遂行可能だ。

表3●統合失調症の初期に見られる症状。休息や薬による治療が必要である
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表3●統合失調症の初期に見られる症状。休息や薬による治療が必要である

 ただし,統合失調症患者は自分が病気であるという自覚がないことが多いため,病院やクリニックを受診するように勧めてもなかなか応じてくれない。こうした場合には家族との連携が必要となる。