2007年12月1日は,BSデジタル放送が始まって7周年になる。この時期に,二つの新チャンネルが放送を開始する。ビックカメラ系の「BS 11」と,三井物産系の「Twell V」である。このうち今回は「BS 11」を取り上げ,同チャンネルの特徴などをまとめてみた。

11月15日に東京のパレスホテルで行われたキックオフパーティーの様子
写真1●11月15日に東京のパレスホテルで行われたキックオフパーティーの様子
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 BS 11を放送する日本BS放送(写真1)は2000年に,データ放送の専業事業者としてBSデジタル放送に参入した。ただしデータ放送用の帯域が少なかったため,本格的なSDTV(標準画質テレビ)放送は実現できなかった。そこで2004年から東経110度CS放送で、「TV5」(テレビサンク,フランスの国際総合テレビ番組)やシッョピング番組を提供するなど、衛星放送分野で積極的に事業を展開してきた。




念願のテレビ放送に進出,ハイビジョン化も実現

 そうしたなか2007年9月30日に,BSアナログ放送におけるハイビジョン(HDTV)普及放送(BS第9チャンネル)が終了した。ここで使用されてきたトランスポンダ(電波中継器)1本分の伝送容量の一部を日本BS放送が取得したのは,2005年12月のことである。

 既存のBSデジタル放送では,トラポン1本当たりの伝送容量でHDTV放送を2チャンネル提供しているが,日本BS放送が伝送容量を取得したときには,トラポン1本の伝送容量が3社に分割して与えられた。BSデジタル放送が始まった2000年当時よりも,「MPEG-2」によるエンコード技術が進歩したためである。同社のほかに伝送容量を取得したのは,先述した「Twell V」を放送する「ワールド・ハイビジョン・チャンネル」と,映画専門チャンネルをHDTVで放送する「スター・チャンネル」である。

 日本BS放送の看板番組は,平日の夕方から生放送するワイドトーク番組「大人の自由時間」である。阿川佐和子,なぎら健壱、モト冬樹などが曜日ごとに司会を担当する。新しい映像技術「VR360」を駆使して,スタジオ映像に360度の実写背景を合成し、臨場感のある効果を出す。米国でもHDTV番組には看板トーク番組が少なくないが,日本BS放送の場合は,よりコストを削減した制作を意識しているようだ。


大人のための「オトナチャンネル」を目指す

 また,株主である毎日新聞社の定時ニュース番組やニュースの真相を掘り下げる「Inside OUT」などの報道番組も放送する。海外物としては,ドイツの公共放送連合体である「ドイチェベレ」のダイジェストニュースもある。日本語の翻訳を付けることで, IPTVなどで既に提供されている再送信サービスと差異化する狙いなのであろう。

 エンターテインメント分野では,日本BS放送の山科誠社長の出身母体であるバンダイに関連するコンテンツとしてガンダムを中心としたアニメや,円谷プロダクションとの協業による「大怪獣バトル」といった自主制作番組を放送する。さらに親会社のビックカメラが制作・監修するショッピング番組枠の大きさも特徴的である。開始当初のハイビジョン制作による番組の放送時間が多いことも注目できる。

 ただしBS 11を視聴するには,いくつか注意すべき点がある。同チャンネルの論理番号はテレビのリモコンの「11」のポジションだが,選局番号は「211」である。新聞などのテレビ欄に「BS11」と表記すると,アナログのNHK衛星第2放送と混同されるケースが想定される。その表記がどうなるのかに,筆者は注目している。

11月15日に始まった「BS11」の試験放送波を受信したときの映像
写真2●11月15日に始まった「BS11」の試験放送波を受信したときの映像
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 また,2005年以前に販売されたBSデジタル放送チューナー内蔵テレビや外付けチューナーなどでは,リモコンのアップダウン選局によってチャンネルを認識させなければならない場合もある。その後,メニュー画面から手動でリモコンの「11」に設定して初めて,リモコンボタンで選局できるようになる。一般視聴者は,自分で取り扱い説明書を読み込む必要があると感じた。なお,筆者宅にあるケーブルテレビ(CATV)のデジタルSTB(セットトップボックス)では,試験放送(写真2)は受信できていない。


再送信の協議を始めるCATV事業者も増える

 12月1日からBS 11を再送信するCATV事業者はそれほど多くなさそうだが,再送信に必要なトランスモジュレーション用の機器を自主的に用意する事業者はいる。2000年当時よりも再送信に必要な局設備のコストはかなり低下しているため,再送信に関する積極的な交渉を日本BS放送と行っているCATV事業者は増えているようだ。ただし,共調設備や小規模なCATVでアナログ再送信しているケースでは、受信できない場合が多い。BSデジタル放送を受信できるテレビを所有しているのに,BSアンテナを接続していない世帯も少なくない。

 24時間無料の総合テレビ放送が新たに加わることは,BSデジタル放送自体のアピールにも役立つ。そのため日本BS放送などの新規参入事業者と、開局7周年を迎えた民放キー局系事業者などが連携したプロモーション活動を積極的に行うことが求められる。


佐藤 和俊(さとう かずとし)
茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。