通信事業者は,NGN上に用意した様々な機能を他のベンダーが利用できるように,アプリケーション・サーバーとNGNを接続するANI(NTTはSNI)を公開する方針だ。このほかのインタフェースとして,NGNとエンドユーザーの端末を接続するUNIとNGNとほかのネットワークを接続するNNIも公開する。

網とアプリの連携の開発期間を短縮

 NTTのNGNフィールド・トライアルでベンダーは,NGNの網機能を活用したアプリケーションを検証している。NECがNGNと連携させている「PushToX」もこの一つ。携帯端末を使って,複数のユーザーが動画,静止画,音声,Web,テキストなど様々な情報をやり取りする。あるユーザーが,携帯端末から相手のプレゼンス情報を確認して,テキスト・ベースのチャットを行ったり,動画や静止画のファイルを送信して共有したりできる。

 こうしたコミュニケーションの手段を実現するために,PushToXはNGNの機能を活用する。NECは,NGNと連携するSDPとして,ネットワーク基盤ソフト「NC7000シリーズ」を利用。NC7000の「サービス・イネーブラ」と呼ぶ機能群とアプリケーションをAPIで連携させた。

 サービス・イネーブラには,NGN上のSIPサーバーにSIPメッセージを送り呼制御を実現する機能のほか,NGNに接続した携帯端末のプレゼンス情報を取得する機能,携帯端末に音声と映像をNGNで配信する機能,メッセージングやチャットなどテキスト・ベースの情報をNGN経由でやり取りする機能──などがある。

 SDPによる網機能活用の具体的な仕組みを,ユーザーAが,ユーザーBとCに動画ファイルを送信する場合を例に見てみよう。ユーザーAが携帯端末にある動画ファイルを,PushToXのアプリケーション・サーバーに送信し,ユーザーBとCの携帯端末に配信するように指示する。指示を受けたPushToXのアプリケーションは,SDPの音声,動画配信のサービス・イネーブラを使ってNGNに送信。NGN経由で動画ファイルをユーザーBとCの端末に送信する(図1)。

図1●複数の携帯端末の間で画像,音声,データを使ったコミュニケーションができるNECの「PushToX」
図1●複数の携帯端末の間で画像,音声,データを使ったコミュニケーションができるNECの「PushToX」
SDPにサービス・イネーブラと呼ばれる機能群を用意することで,アプリケーションからNTTのNGNの機能を利用できるようになる。
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 通信事業者がインタフェースを用意して,様々な機能を開放していることは,サービス・プロバイダにとって大きなメリットになる。NECネットワークサービスシステム事業部の半田保彦主任は,「SDPで網側の機能とアプリケーションの連携が可能になり,新しいサービスを立ち上げやすくなる」と話す。両者の連携が手軽になれば,サービス開発期間の短縮に直結する。

SaaS型アプリが網機能と連携

 OKIとNTTコムがNGNトライアルで検証する「Web連携アプリケーションサービス」は,グループウエアと網機能の連携により,機能拡張を図っている。米ジンブラ製のSaaS型グループウエア「Zimbra」とNGNの網機能を連携させて,プレゼンス情報の取得やクリック・ツー・コールによる映像と音声を活用したWeb会 議などを,グループウエア上から利用可能にしている。

 同サービスでは,NTTコムが開発したSDPを使ってグループウエアと網機能が連携する。このSDPは,OKIと日本BEAシステムズが共同開発したSIP搭載J2EEアプリケーション・サーバーと日本ヒューレット・パッカード製の音声/メディア処理プラットフォームなどを組み合わせて構築した。網側の機能を使って第三者の呼制御を行う「3PCC」(third party call control)や,複数のユーザーとビデオ会議を行う「マルチメディア・カンファレンス」などの機能を搭載している。これらの機能はZimbraの「Zimlet」と呼ぶシステム連携技術を使うことで利用できるようにした。

 Web会議をしたい場合,ユーザーは相手となるユーザーの端末がNGNに接続しているかどうかをグループウエア上で確認する。接続を確認できれば,相手のユーザー名をクリックして,ビデオ会議を開始するようSDP側のマルチメディア・カンファレンス機能に要求する。これを受けたSDPではユーザーから送られた映像と音声を,NGNのユニキャスト通信で相手に送信することでビデオ会議を実現する。

SIPアダプタで既存システムをNGNで利用

 公開されたインタフェースに対応することによって,既存の機器やシステムに手を加えずにNGNを活用する事例も登場した。

 三菱電機は「SIPアダプテーション機能搭載型ゲートウェイ」(SGW)を開発。従来からある監視カメラで撮影した映像を,遠隔のビューワ用端末でリアルタイムに確認できる監視システムを,SGWを検証している。

 今回の実証実験では,監視システムのハード/ソフトにはまったく手を加えていない。UNI側にある監視カメラとビューワ端末,SNI側のアプリケーション・プロキシ・サーバー(APS)のそれぞれにSGWを接続して,NGNのSIPのインタフェースに対応できるようにした(図2)。

図2●三菱電機がNTTのNGN上で実験している遠隔監視システム
図2●三菱電機がNTTのNGN上で実験している遠隔監視システム
SIPアダプテーション機能搭載型ゲートウエイが,NGNが導入したSIPサーバーとインタフェースを合わせることで,NGN網内に「高優先」レベルのユニキャスト通信が可能になる。
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 実際の接続時には,まず監視カメラにつながったSGWが,NGNのSIPサーバーにSIPメッセージを送信。画像データの送信先であるAPSとビューワの側にあるSGWまで,回線の接続や帯域確保の指示を出す。このあと監視カメラの映像がAPSを経てビューワ用端末まで,RTP/UDPのユニキャスト通信で送られる。

 現行の監視システムは,Bフレッツの環境で稼働しているが,ネットワーク環境によってフレームのコマ落ちや映像の劣化が生じる可能性がある。この点で,NGNトライアルでは「SDクラスの監視画像を15フレーム/秒で安定して送信できることを確認した」(三菱電機通信システムエンジニアリングセンター通信・映像機器エンジニアリング部の吉沢健一部長)という。SGWのような機器を別途作ることで,既存システムに手を加えず,速やかにNGNを使ったサービスを実現できることを証明した。