NTT東西地域会社がNGN(次世代ネットワーク)の商用サービスの概要を公開した。2008年3月に開始するサービスについて明らかにしたのは,サービス内容や当初の提供エリア,ネットワーク構成だけ。肝心のサービス料金やエリア展開の計画,固定電話網やフレッツ網の巻き取りスケジュールなどは未定のままだ。

 NTT東西は10月25日,NGNの商用サービスを提供するために必要な「活用業務」の認可を総務省に申請した。併せて2008年3月からNGNで提供するサービス概要や提供エリアなどを,正式に発表した。

 NTT持ち株会社の三浦惺(さとし)社長は「11月の中間決算発表のタイミングで,NGNの商用サービスの内容などを明らかにする」としていた。しかし実際は,予定より数週間前倒しで,NTT東西がNGNの商用サービスを公開した。

 活用業務の申請はNGNを使うサービスが,NTT東西の本来業務である県内通信だけではなく,県間を越えることに伴う措置。総務省が活用業務申請を認可するまでには,パブリック・コメントの募集などを含めて4カ月程度かかる。NTT東西はこれまで公言していた「2007年度下期の商用化」を確実にするために,10月中の認可申請が必要と判断したようだ。

既存サービスの引き継ぎがほとんど

 気になるサービスの中身だが,基本的にはNGNは,「現行フレッツ網を高度化,大容量化したもの」(NTT東日本の渡邊大樹取締役経営企画部長)という位置付けになっている。開始当初は,現在FTTHサービスの「Bフレッツ」とフレッツ網を使って提供しているのと同様のサービスがほとんどである(表1)。

表1●NTT東西が明らかにしたNGNの商用サービスの概要
赤色の部分がNGNによる新サービス。その他は,既存のフレッツ網で提供しているサービスと基本的には同じもの。
サービス内容 Bフレッツに相当するNGN用のFTTH(IPv6の標準装備
→戸建て向け,集合住宅向けに最大100Mビット/秒
事業所向けに最大1Gビット/秒
フレッツ・オフィス相当の企業向けVPN
フレッツ・グループ(アクセス)相当の企業向けVPN
コンテンツ配信
→VODサービスのようなユニキャスト通信,放送サービスのようなマルチキャスト通信
ユニキャスト通信には帯域確保がオプションで可能
地上デジタル放送のIP再送信向けマルチキャスト通信
→地上デジタル放送IP再送信向けの帯域確保型マルチキャスト通信
0AB~J番号を使えるひかり電話相当のIP電話
→帯域確保による標準品質通話,高品質通話
→標準帯域のテレビ電話,標準テレビクラスのテレビ電話,ハイビジョンクラスのテレビ電話
最大通信速度1Gビット/秒の企業向けイーサネット接続
提供エリア 首都圏の一部(NTT東日本),大阪府の一部(NTT西日本)
サービス開始時期 2008年3月(予定)
NGN:次世代ネットワーク  VPN:仮想閉域網  VOD:ビデオ・オンデマンド

 具体的には,最大100Mビット/秒のインターネット接続サービス,フレッツ・オフィスやフレッツ・グループ(アクセス),イーサネット接続サービスといった法人向けのWANサービス,コンテンツ配信やIP電話サービス「ひかり電話」相当のサービスである。

 さらに最大1Gビット/秒の事業者向けのインターネット接続サービスや,帯域確保型のコンテンツ配信,地上デジタル放送のIP再送信,高音質の電話や高画質のテレビ電話などを,NGNで新たに提供する。

 サービスは,NTT東西が約500人に実施したNGNのフィールド・トライアルと同じエリアから提供を始める。NTT東日本は首都圏の一部で,NTT西日本が大阪府の一部である。

 Bフレッツを使っているユーザーがNGNに移行する場合は,NGN用の申し込みが新たに必要となる。既存のBフレッツと,NGN用の光アクセスは「OLT」(optical line terminal)と呼ぶ局側の収容装置が別になるため,現行のBフレッツ・ユーザーがNGNに乗り換える際には,局側での収容装置換えの工事が必要になるようだ。

東西のNGNは中継事業者がつなぐ

 サービス概要やエリアに加え,NGNのネットワーク構成も見えてきた。

 NGNは,NTT東西がそれぞれ別に構築し,中継事業者を間に挟んで接続する。この中継事業者は,「3月のサービス開始に間に合うスケジュールで入札によって決める。その際,東西のNGNを接続するための品質レベルを指定し,それを満たせる事業者にする」(渡邊取締役)という。

図1●NTT東西が提供するNGNのネットワーク概要
図1●NTT東西が提供するNGNのネットワーク概要
NTT東西のNGNは直接接続せず,中継事業者を介す形になる。NNIやSNI,UNIといったNGNのインタフェース条件は,商用版を用意するが,トライアルとほぼ同じになるという。
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 NTTがNGNフィールド・トライアルで公開していたインタフェースは,ほぼ変更がないもよう。事業者の網とNGNを接続するインタフェース条件「NNI」(network-network interface),サービス・プロバイダなどのサーバーとNGNを接続する「SNI」(application server-network interface),ユーザー宅の端末とNGNを接続する「UNI」は(user-network interface)が,商用版でもそのまま利用できそうだ。特にNGNで何らかの変更が必要になると推測されていたUNIも,「ユーザー宅内での変更作業などが発生しないようにする」(渡邊取締役)という。

 商用化の半年前に,NTTによるNGNサービスの概要や提供エリア,ネットワーク構成,商用のインタフェース条件がある程度見えてきた。しかしユーザーが最も興味を持つサービス料金やエリア展開計画,固定電話網やフレッツ網をNGNで代替していくスケジュールなどはまだ「検討中」とした。

NGNの新サービスはオプション料金

 料金は,「現行のフレッツ網で提供しているサービスは,NGNでも同じような水準になる」(渡邊取締役)という。帯域保障付きのコンテンツ配信や地上デジタル放送のIP再送信,高音質電話,高品質テレビ電話などのNGN用の新サービスを使う場合は,別途オプション料金を徴収することを検討している。ただ,このオプション料金は伏せたまま。渡邊取締役は,「現在検討中だが,ユーザーの使い勝手がいい料金にしたい」と述べるにとどまった。

 将来のエリア展開計画も明らかにしなかった。「一般的に考えれば,次は東京23区,そして政令指定都市へとエリア展開していくことになるだろう。ただ,そのペースは検討中で,全国にエリア展開できるのはいつになるか分からない」(渡邊取締役)。

 現行の固定電話網やフレッツ網をNGNに切り替えていくステップやそのスケジュールについても明言を避けた。「現時点でNTT東西のFTTHユーザーは700万程度だが,固定電話は5000万回線もある。NGNでの巻き取りは大きな課題で,計画経済的には進められない。市場の需要を見ながら今後スケジュールややり方も含めて考える」(渡邊取締役)という。

料金はサービス開始直前に発表か?

 10月下旬に発表したサービス概要などを見る限りでは,NTT東西は活用業務の認可申請を最優先させた格好だ。その一方で,NGNのサービス料金やエリア展開計画だけでなく,NGN用の新ブランド名や既存のフレッツ・サービスとどうすみ分けて販売していくのか,などの調整をグループ内で続けている。

 料金や既存ブランド「フレッツ」との差異化など,具体的なNGNのサービス像が明らかになるのは2008年3月の商用化直前になりそうだ。