日本市場の要求をCGLに反映へ

 日本でも当時のOSDL Japan内にCGLサブワーキング・グループを設置し,日本市場独特の要求をCGLに反映するための活動を続けてきた。

 並行してNTTはユーザーとして要求するだけでなく,「Pannus」と「Resumo」と呼ぶ二つのプロジェクトを立ち上げて,CGLに必要な機能の実現を目指している。

Pannushttp://pannus.sourceforge.net/):システムを止めずにソフトを修正できるようにするもの。CGLでは「Live Patching」機能として定義される。常に稼働し続ける必要がある通信機器は,故障時だけでなくハード/ソフトのメンテナンス中にもサービスの中断は許されない。近年の技術革新によって,システムが稼働中でも一部のハードの部品を入れ替えられる。しかし現状では,ソフトの更新時は多くの場合でシステムの停止を避けられないため,この問題の解決を目指す。

Resumohttp://resumo.sourceforge.net/):ソフトウエア障害時に自動的にシステムを再起動できるようにするもの。CGLは「Boot image fallback」機能として定義する。システムダウンが許されない通信機器には,万が一止まっても速やかにシステムを復旧させる仕組みを持たせる必要がある。ソフト障害の場合,システムの再起動によって復帰させるのが一般的だが,その自動化を目指す。

複数の製品がCGL準拠をうたう

 CGLは要求定義の策定だけでは意味がなく,要求定義に対応したLinuxのディストリビューションがあって初めて意味を成す。CGLではRegistration(登録)手続きにより,CGLに対応したディストリビューションとしてLFのWebサイトに掲載される。表4に,CGLに準拠しているとして登録されたディストリビューションを示す。

表4●CGL対応として登録されたディストリビューション
LinuxファウンデーションのWebサイトに掲載されたものを転載した。
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表4●CGL対応として登録されたディストリビューション

 ただし,登録の際に適合試験は不要で,適切に対応しているかどうかの判断は登録側に委ねられる。つまり登録内容の真偽は登録者の善意に依存するのが現状である。

 CGLが適する領域は多くの通信機器に及んでいる(図2)。横軸は機器の単価で右に行くほど低価格,つまりシステム価格に対する要求が厳しくなることを示す。縦軸は単純な大小ではなく,用途としてI/Oやメディア処理といったリアルタイム性が重視される処理が多いか,機器内部での演算処理が多いかという点に基づいてプロットした。

図2●CGLの適用領域
図2●CGLの適用領域
横軸は機器の単価で,縦軸はリアルタイム性が重視される処理が多いか機器内部での演算処理が多いかで,それぞれプロットした。
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 CGLは主にネットワークのコアやエッジでI/Oやメディア処理を行う機器に向き,単価の低い機器でカスタマイズが容易なLinuxの特性を活かせる。

 一方,最近では企業システムと通信サービスが融合し,通信設備の中に従来の市販のコンピュータを組み込む例が増えてきた。特にNGNでIMSSDPを構成する場合に,市販のコンピュータが構成要素としての役割を担っている。

 ただし,市販のコンピュータでもCGL対応の「RedHat」などの商用ディストリビューションのLinuxを採用するなら,これは結果的にCGLを搭載した通信機器と呼ぶこともできる。

 NECは2003年9月10日,世界初めてATCAとCGLを採用して通信機器を開発したことを発表した。対象機器は携帯電話においてパケット通信機能を提供するSGSNGGSNである。

 NECはATCAとCGLの採用によって従来よりも開発期間を3分の1に短縮しただけでなく,開発費用の削減にも成功した。

短所から浮き彫りになる課題

 CGLは今も,多くの人に支えられ発展している。今後のCGLの課題は,その長所・短所を洗い出すことで浮き彫りになってくる。

長所

  • CGLに必要なキャリア・グレードの機能を盛り込める
  • CGL対応のディストリビューションを選択するだけで,Linuxをカスタマイズせずにキャリア・グレード機能を入手できる
  • 要求定義の改訂により,将来にわたる機能追加を見込める
  • CGL対応のディストリビューション間でベンダーの変更が可能であり,一つのディストリビューション・ベンダーに縛られる恐れが少ない
  • 特定のハード・メーカーに依存していない

短所

  • 様々な人が様々な目的で機能を盛り込むため,要求定義が盛りだくさんになる。一部の人には不要な機能も含まれる。
  • CGL対応をうたっていても,客観的にCGL対応であることを測る物差しがない
  • 欲しい機能がCGLの要求定義に載っていない場合,その機能はCGL対応のディストリビューションだけでは手に入らないため,自分で作成するか外部に委託する必要がある
  • ディストリビューションは必ずしも最新のCGLに対応するとは限らない。対応までに時間がかかるため,欲しい機能がすぐ手に入るとは限らない
  • 商用ディストリビューションを選択した場合,サポート期間が限定されてしまう。通常の通信機器は10年程度など,長期間運用されるのが一般的

 こうした短所は,今後のCGLの課題である。この対策として,いくつかの動きが始まっている。具体的にはSCOPEアライアンスやCP-TA(Communications Platforms Trade Association)が活動を始めている。