前回に続いて、テーマはシステム受注後の要求仕様の確定である。いかに見積もり条件(金額、納期)に合う仕様に確定するか、いかに仕様の膨張を抑えるか、そして確定をいかに早く実現するか。これらの課題の解決方法を考えてみる。

64日目●顔立てて後は予算とご相談

 顧客と仕様を固めている過程で仕様が増え、当初見積もり以上に開発規模が増えてしまうと、予算面でも納期面でも難しい事態に追い込まれてしまう。顧客が納期を延ばしてくれ、予算も増額してくれれば何とかなるにしても、納期を守り、予算追加は極力少なくなるように、仕様膨張の抑止策を顧客と一緒になって必死に検討すべきである。

 それには、提示された要求機能の優先順位をはっきりさせることが第一歩だ。顧客責任者の顔が立つ最優先機能に絞り込み、何とか所定の納期で実現することである。

 残った機能については、顧客が用意できる予算と相談しながら取捨選択してもらえるように顧客に働きかけることが望ましい。何人かの業界人やコンサルタントの意見を見ても、「顧客要求の約7割が実現できれば何とか形がつく」と言っている。



65日目●御旗たて優先機能を選び出せ

 要求機能に優先順位がきちんと付くことがシステム成功の鍵である。優先順位がきちんと付くためには、当該プロジェクトがどういう目的で遂行されるのか、何のためにこのシステムを作るのかを、はっきりさせることが大事である。

 つまりプロジェクトの進むべき方向を明示した“錦の御旗”を立てることであり、プロジェクト開始時に顧客責任者にそれを高らかに掲げてもらうことだ。錦の御旗が明確だと、高優先度機能が明確になり、誰もがその実現に向かって努力するので、その確実な実現に役立つ。

 また相対的に優先順位の低い機能も見えることになる。工数や納期、あるいは費用面で無理がある場合には、優先順位の低い機能は後回しにしたり、機能をカットしたりすることが容易になり、失敗を回避することにつながっていく。何でも「おっしゃるとおり」と顧客の要求仕様をそのまま引き受けていると、システムは膨張・複雑化し、必ずしも顧客満足度の向上につながらない。



66日目●こうやればそんな機能はなしですむ

 システムを単純化し、仕様の膨張を抑制する一番強力な方法は、実現しようとする機能を除去してしまうことである。

 かつて電子回路の複雑化とともに、はんだ付けの個所が増え、増えたはんだ付け不良をいかに減らすかが大きな課題になった。だが、集積回路が出現しはんだ付けが不要になるとはんだ付けの不良対策も不要になった。対象がなくなれば、あれこれ悩むこともないし、すっきりするわけである。

 システム設計の各場面で、何とか「機能除去」ができないかと真剣に考えることがシステムを単純明快にするポイントだ。すなわち、「最も単純明快なシステム提案とは、システム自体を不要とする提案であり、最高の設計とは対象機能をなくしてしまうこと、何もしないこと」である。



67日目●シンプルはお客さまにもお得です

 シンプルなシステム仕様の追求は、契約予算と納期を守るための必須条件であるが、優れた信頼性の高いシステムの実現のためにも極めて大事である。そのためには何よりも業務仕様がシンプルで美しくまとまるように積極的に顧客に提案し、仕様確定をリードしていく必要がある。

 もちろん、システムの中枢をなす機能は、たとえ複雑な仕様であっても何とか実現しなければならない。だが、副次的な機能において複雑な仕様を要求されていないか、よく見極める必要がある。副次的機能でシステムの信頼性を落としてしまうのは本末転倒であり、シンプルな仕様にまとまるよう「顧客を説得すべきである。

 幸いユーザー側でも、機能過剰システム、いわば「ITメタボリック症候群」を問題とみており、見直しの好機である。難しいシステム更改を、あまり使われない機能は極力組み込まないよう周囲を説得して、成功させた大手ユーザーの事例がIT雑誌でも紹介されるようになってきた。

 こうした傾向はユーザーにとっても、ベンダーにとっても良いものだ。互いに協力し合って簡明な合理的なシステム構築を目指したい。