セキュリティ対策の決定手順

 セキュリティ要件から具体的な対策を導き出すには,7段階のステップを踏みます(図1)。

図1●セキュリティ対策の検討手順
図1●セキュリティ対策の検討手順
ヒアリングした要件を詳細化し,具体的な対策を決定する。選定した技術によってはトレードオフが発生するので,利用部門に了承を得る必要がある
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詳細を確認し,隠れた目的を明らかに

 最初に,セキュリティ要件の定義を明確化し,できるだけ定量的に評価できるようにします。例えば,「外部から侵入できないこと」という要件であれば,「外部」とは何を指しているのかを定義する必要があります。社内LANの外側(インターネット)というネットワーク上の意味なのか,サーバー・ルームの外側という物理的な意味を含むのかを明らかにします。サーバー・ルームへの侵入も阻止する必要があれば,大がかりなファシリティ(建物などの設備のこと)の工事や場所の移転も考慮します。このとき,目的の確認を忘れないようにしましょう。上辺の要件に惑わされ,目的と外れた要素技術を選定しないようにするためです。

 一般に機密性を強めるほどコストがかかりますので,要求されている機密性の強度の確認が欠かせません。情報の重要度に沿った「機密レベル」を設定していれば,機密レベルの高い情報に,より強固なセキュリティ対策を施すことができます。システムの利用者や所有者が準備できる対策費の確認も必須です。対策費には,セキュリティ関連の装置や製品を購入する費用,セキュリティ関連の機能を設計・開発するための工数,脆弱性が紛れ込んでいないかを検証するテスト費用――などが含まれます。

 ここまでの事前準備を経てから,具体的に技術の選定に取りかかります。ハードウエア,ミドルウエア,アプリケーションの各層に要素技術がたくさんありますので(表1),それらを相互補完的に組み合わせます。選択した要素技術によっては,トレードオフがあります。例えば,ネットワーク経路上でデータを盗み見されないようにSSL(Secure Sockets Layer)で暗号化したらパフォーマンスは低下します。これが,制約条件の確認を行うということです。こうした影響を残らず洗い出し制約条件とします。利用部門がこの制約条件を許容できない場合には,「パフォーマンスを下げないようにSSLアクセラレータ装置を導入する」など,別の技術で補完します。この結果,SSLアクセラレータの費用が発生するという別の制約条件が発生します。こうしたトレードオフを調整ながら,制約条件をまとめます。

表1●セキュリティ対策の要素技術
表1●セキュリティ対策の要素技術

 最終的に図1の(1)~(6)の内容について,システムの利用者や所有者の承認を取り付けます。現実には,図1の(4)で確認した対策費では,要求されたセキュリティ強度を満たせない場合があります。その場合には,理由を示したうえで対策費の上積みを了承してもらうか,図1の(3)で確認したレベルを部分的に下げるなど,見直しが必要になります。レベルを部分的に下げる場合には,それによって高まるリスクについて,システムの利用者や所有者にきちんと説明し,理解してもらったうえで合意形成することが欠かせません。

高安 厚思(たかやす あつし) オープンストリーム テクニカルコンピテンシーユニット 主管システムズアーキテクト
銀行系シンクタンクでオブジェクト指向技術の研究に携わった後,大手SI業者でアーキテクチャ構築やプロセス研究を担当。現職ではSOA(Service Oriented Architecture)を中心とする研究開発とアーキテクチャ構築に従事している

椎野 峻輔(しいの しゅんすけ) システム・コンサルタント(セキュリティ監修)
大手SI業者でシステム構築を経験後,ベンチャー企業に転身。システム導入コンサルティングから,開発・運用,セキュリティ診断まで,幅広い領域を担当する