オフショア開発の委託先として、フィリピンのソフト開発企業が名乗りを上げている。公用語の英語と新技術への対応力を武器に、日系グローバル企業から海外システムの受注を目指す。日本法人を設け日本人をトップに据えるなど、営業活動も強化している。


 インドの影に隠れて目立たないが、フィリピンは米国向けのシステム開発ではインド、中国に次ぐ3番目の実績がある。日本貿易振興機構(ジェトロ)マニラ・センターの花輪晃二氏は、「アクセンチュアが7000人規模の開発要員を確保しているほか、米IBMや富士通なども開発拠点を拡大中だ」と明かす。

 フィリピンの強みは、英語力とオープンソース・ソフトウエア(OSS)など新技術への対応力だ。プログラマの人月単価が20万~35万円程度と、インドより10万円程度割安なのも売り物の1つである()。

表●フィリピンとインドのソフトウエア開発産業、人口などの比較
表●フィリピンとインドのソフトウエア開発産業、人口などの比較

 英語という強みで、なぜ日本市場を目指すのか。フィリピン最大財閥「アヤラ」グループのSI企業、「アヤラ・システムズ・テクノロジー(ASTI)」のアーウィン・ロクシン社長は、「グローバル企業の海外システムなど、日本企業の開発案件でも英語が必要なケースは多いはず。そこに需要があると考えた」と説明する。日本語力では、中国にかなわない。そこで英語を生かせる開発案件に特化して攻めようというのが、ASTIの戦略だ。

 ASTIは06年11月に日本法人「ASJ」を設立。JFEスチール出身の神田茂氏を社長に招いた。神田社長は、日本での人脈などを通じて、大手銀行が OSSを全面採用した新システムの開発プロジェクトを始めようとしているとの情報を入手。システムの一部を受注し、そこで実力を認められ、本格的な契約獲得にこぎ着けた。大手銀行のシステムは、海外拠点向けではないが、グローバルでの標準技術を使う方針が決まっていた。

 神田社長が仕事を獲得するのに合わせて、フィリピンでは日本向けの案件をこなす専門部隊を拡張している。顧客数は、まだ2~3社程度だが、すでに60人が首都マニラの開発拠点でプログラミングなどに取り掛かっている。

 ASTIだけではない。日本IBM出身の小西彰社長率いる「アドバンスド・ワールド・システムズ(AWS)」は、京セラミタ、住友重機械工業など、20 社超の日系企業を顧客に持つ。小西社長は「売上高の99%以上が日本からだ」と胸を張る。同社はフィリピン企業にしては珍しく、「技術者の大半が日本語を話せる」(小西社長)。

 フィリピンのIT事情に詳しい現地コンサルティング会社「スパイスワークス・コンサルタンシー」の安部妙氏は「政府はコールセンターなどの誘致に積極的で、ソフト開発産業の発展に向けた政策的な後押しがまだ足りない」と分析する。技術者の動員力などにも課題はあるものの、海外での事業強化を考える日本のグローバル企業にとって、フィリピンのソフト開発企業がオフショア先の選択肢に加わる可能性は十分にある。