先進的な開発体制を敷いているポリテックは、日本のITベンダーとの協業を急ぐ。2007年7月には日本市場向けに、新たな開発・運用センターを構えた。候補地は日系人の多いブラジル南部の州だ。


※11月28日公開「ブラジルが新たなオフショア拠点に浮上」から続く


 ブラジルは1980年代、ハイパーインフレに襲われた。「当時は1日で貨幣価値が激変するため、バッチ処理で決済していては国民生活が成り立たなくなる状況だった。そのため決済処理を全面的にリアルタイムへ移行せざるを得なかった」(福山代表)。

 システム開発力の向上に貢献したのは、かつての経済低迷だけではない。「当時の治安の悪さもあって、現金よりもクレジットカードのニーズが高まり、先進国よりも金融インフラのオンライン化が進んだ」(福山代表)。

 ポリテックに限らず、ブラジルのITエンジニアの力量を客観的に測る指標として、米A.T.カーニーの調査「Global Services Location Index」が参考になりそうだ()。これは、システム開発や運用・保守、コンタクトセンターなどを手掛けるサービス拠点として、魅力的な国をランキングしたもの。上位20カ国のうちブラジルは、大学卒業者率や言語能力、労働力の減少リスクなどの観点から見た「People and skills availability」という項目だけで見ると、中国やインド、シンガポールなどに続き第6位を占める。

表●米A.T.カーニーの「Global Services Location Index(2005年度)」での上位20カ国
表●米A.T.カーニーの「Global Services Location Index(2005年度)」での上位20カ国
この調査はシステム開発・運用・保守やコンタクトセンター、各種バックオフィス業務などを担当するサービス拠点として魅力的な国をランキングしたもの。ブラジルはトータルスコアで10位につけた

 「エリートの集まるサンパウロ州立大学には、工学部の人気が高い。機械・電子工学に次いで情報工学の競争率が高いようで、IT業界に優秀な人材が集まる土壌がある」(ポリテックやサンパウロ州立大学を視察した東大の大場教授)。

ペーパーレス開発を徹底

 「エンジニアの机には数枚の資料が置いてあるぐらい。ペーパーレスが徹底されていて、整然とした光景には驚かされた」。NTTデータの端山部長は、ポリテックの開発センターを訪れた際の感想をこう述べる。日本のITベンダーの開発現場では、分厚いファイルが山積みのケースは多い。SEI(米カーネギーメロン大学ソフトウェア工学研究所)認定CMMIインストラクターの資格を持つ端山部長は、「事前に聞いていたが、間違いなくCMMIレベル5の開発体制を整えている」と太鼓判を押す。

 ポリテックでは、「プロジェクトファクトリー」と「ソフトウエアファクトリー」という組織が開発を進める(図1)。600人のプロジェクトファクトリーは、プロジェクトマネジメントや開発方法論・開発手順を策定。ソフトウエアファクトリーの4700人が開発の実務を担当する。

図1●ポリテックのシステム開発体制
図1●ポリテックのシステム開発体制
同社は、ソフトウエア開発能力の評価基準である「CMMI(能力成熟度モデル統合)」で最高のレベル5を取得している
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 各工程におけるコミュニケーションギャップをなくすために全社導入しているのが、「オンライントラッキング&レポーティングシステム」だ。要件定義や開発、運用・保守など各工程で作成すべきドキュメントのフォーマットを規定し、すべて電子データとして保存。ユーザー企業と交わす契約書や仕様変更依頼書などシステム構築業務で発生する文書をすべて、このシステムで一元管理している。