日本にとって、地球の真裏に位置するブラジル。サッカー界での交流は盛んだが、IT業界ではなじみが薄かった。ところが状況は変わりつつある。ブラジル最大手SIer、ポリテックが日本市場の開拓に乗り出したのだ。


 ブラジル日系移民100周年―。2008年6月は、両国にとって記念すべき時となる。そうした“お祭り”を前に、IT業界でも日本とブラジルとの交流が活発になりそうだ。国内のITベンダーが注目すべきは、いまや中国、インドだけではないのである。

 実はここ半年の間に、大手ITベンダーの担当者やIT業界の有識者が続々と、丸1日以上の飛行時間を費やしてブラジルを訪れている。2007年1月にブラジルのITベンダー数社を視察した、オフショアリング事情に詳しいガートナー ジャパンリサーチ部門主席アナリストの足立祐子氏は、「中国やインドに次ぐオフショアリング拠点として、ポテンシャルが高いと見ている。代表的なITベンダーの力量がどれほどのものかを、この目で確かめたい」と、ブラジルに赴く狙いを語る。

 2006年9月には、NTTデータの端山毅SIコンピテンシー本部設計積算推進部長と、東京大学大学院工学系研究科の大場善次郎教授が、それぞれブラジルに飛んだ。それに先駆け2006年5月には、三菱商事系のIT関連会社であるアイ・ティ・フロンティア(ITフロンティア)の古川勝博執行役員ITプラットフォーム事業担当役員が、ブラジルに向かった。

共通の訪問先はポリテック

 4氏の訪問先には、共通するITベンダーがある。ブラジルのシステムインテグレータ最大手、ポリテックだ。「グローバルで戦うには、力のあるITベンダーと組むことが必要。新たなパートナー探しの一環として、ポリテックに目を付けた」(NTTデータの端山部長)。

 ITフロンティアの古川執行役員は、「三菱商事のコネクションで、『ポリテックという力のあるITベンダーがある』と聞き、関心を持った」と言う。

 ITフロンティアは、視察やその後の調査を通じて、ポリテックとの協業を決定。日本企業におけるポリテックとの提携企業第1号となった。ITフロンティアはこの1月から、ポリテックから日系人エンジニアを招いている。NTTデータは現在、ポリテックとの協業を検討中だ。

 このほかNECや日立製作所、富士通もポリテック日本法人と接触し、手を組めるかどうか議論しているという。ポリテック日本法人の福山スタンリー代表は、「世界第2位の経済大国である日本からの仕事を獲得することで、グローバルカンパニーの仲間入りを果たしたい」と、日本の大手ITベンダーとの提携を急ぐ。

 従業員約6000人を誇るポリテックの業績は好調。2006年12月期の売上高は前年同期比20%増の5億6697万レアル(約312億円、1レアル 55円換算)を見込む(図1)。「ハード・ソフトの売り上げがあるIBMやHPには及ばないが、SIだけで見ればメーカー系より当社の方が多い」(ポリテック日本法人の福山代表)。利益については公表しないが、「2001年度から今期まで、前年比平均25%増のペースで伸びている」(同)。近く、米国かブラジルの証券市場に上場する計画。米ナスダックから「上場してほしい」との打診がきている。

図1●ブラジルのSIer最大手ポリテックの業績と、ブラジル市場におけるシェア
図1●ブラジルのSIer最大手ポリテックの業績と、ブラジル市場におけるシェア
写真は首都ブラジリアにある本社の概観。設立から35年以上経ち、サンパウロなど13カ所に開発・運用センターを構える
[画像のクリックで拡大表示]

 ポリテックはブラジル銀行や連邦銀行カイシャ・エコノミカ、FBI(米連邦捜査局)のシステム構築や運用・保守を請け負っている。欧米の大手銀行のブラジル支店向けのシステムや、ヘルスケア業界の基幹システム開発、運用・保守の実績も豊富だ。さらに「スクラッチ開発だけでなく、独SAP製のERP(統合基幹業務システム)パッケージを得意とする技術者約500人いる」と自信を見せる。

 ポリテックの福山代表は、「金融機関に代表される大規模システムの業務アプリケーション開発や、システム基盤の構築に強みを持っている」と強調。金融機関向けのシステムを得意とする理由について福山代表は、「過去の経済事情から、優れたオンラインリアルタイム処理システムを作らねばならず、その時期に情報システム関連の技術力が磨かれた」と語る。


※11月29日公開「日本での協業急ぐブラジルSI大手」に続く