CGL(Carrier Grade Linux)とは,通信事業者が通信インフラの構築に利用できるように,信頼性やレスポンス性能などを向上させたLinuxシステムのこと。NGN(次世代ネットワーク)の構築が進む中,低コストかつ短期間で製品を開発できるため,通信機器メーカーに導入の動きが見えてきた。

 インターネットが普及し始めた1990年代後半から,通信ネットワークの主役は交換機を中心とした電話ネットワークから,ルーターを中心としたIPネットワークに移って来た。

 従来の交換機は,各メーカーが独自にハード/ソフトを開発して作り上げてきた。ところが近年コンピュータ技術の進歩が速まり,各社による独自開発では進歩に追い付けなくなってきた。しかも,電話サービスを提供する通信事業者間の競争が激しくなり,主たる通信設備である交換機にはコストダウンの圧力が絶えずかかっている。

 このため,交換機メーカーが独自にハード/ソフトを開発するという従来の手法から,市場にある製品や技術を組み合わせるCOTS(commercial off the shelf)と呼ぶ手法に移行する動きが始まった。市場にあるハード/OS/ミドルウエアを採用することで,交換機メーカーはその時点で最新の技術を取り込める。アプリケーション開発に集中でき,短期間で低コストな通信機器を開発可能になる。技術の進歩にいち早く追従し,タイムリーに安い製品を市場に出荷できる。

 折しも,90年代から2000年代にかけて,ハード/OS/ミドルウエアの各レイヤーで標準化の動きが始まっていた。ハードウエアでは標準化団体のPICMGが,ATCAと呼ぶ規格を策定した。OSではLinuxが台頭し,OSDLというLinuxの標準化団体を旗揚げした。その上のミドルウエアでは標準化団体のSAFが,主にミドルウエアとハード/アプリ間のインタフェースの仕様策定を始めた。

 各通信機器メーカーはアプリ開発に集中的な投資が可能となり,競争力を高められるようになった。表1に各団体が設立された年と最初に主要な仕様が策定された時期を列挙したが,ほぼ同時期の2002年第4四半期に仕様がまとめられていることが分かる。

表1●各標準化団体の仕様策定時期
90年代から2000年代初頭にかけて各団体が成立し,仕様を策定した。
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表1●各標準化団体の仕様策定時期

Linuxに通信事業者向け機能を追加

 OSDLはNEC,米IBM,米インテル,米コンピュータ・アソシエイツ,米ヒューレット・パッカードの5社を創設メンバーとして,2000年に設立された。2003年6月にLinuxの開発者であるリーナス・トーバルズ氏が参加した結果,OSDLが実質的なLinuxの標準化団体としての認知を得ることになった。

 さらに,2007年1月にOSDLとFSG(Free Standards Group)が合併したことによってLinuxファウンデーション(LF)が成立。今日に至っている。

 Linuxは,ユーザーがカスタマイズして使えるなどの柔軟性を持つ半面,交換機などのシステムに必要な可用性やリアルタイム性などの機能が不足していた。そこで当時のOSDL内にCGLワーキング・グループ(WG)を発足させ,交換機を含めたキャリア・グレードのシステムに必要な機能の策定に着手した。CGL WGが発足してからのリリースの経緯を表2に示す。

表2●CGL WGが発足してからのリリースの経緯
2002年1月に発足後,2007年2月にはCGL4.0をリリースした。
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表2●CGL WGが発足してからのリリースの経緯

 CGL WGの守備範囲は,ハードとミドルウエアの中間に当たる(図1)。下のハード部分はメーカーの守備範囲,上位のミドルウエアはSAFの守備範囲であり,最上位のアプリケーションは各通信機器メーカーが開発する。

図1●CGL WGの守備範囲
図1●CGL WGの守備範囲
守備範囲は色付きの領域である。ハードとミドルウエアのちょうど中間部分に位置する。
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