こんにちは,quill3(クイールさん)と申します。最初に短く自己紹介させてください。

 筆者は,IT系企業に勤務している大型メインフレーム*1系の技術者で,およそ10年ほどCOBOL*2を使用した事務処理用のシステム開発に携わってきました。

 自宅のPCでも趣味でプログラミングをしています。ここ数年のWebアプリケーションを見て,筆者もこの流行に乗り遅れまいと,Rubyを利用してRetroTubeというサイトを作りました(図1)。2007年1月から公開しています。

図1●RetroTubeのスクリーンショット
図1●RetroTubeのスクリーンショット

 RetroTubeは,1976年から2004年までのある年と,「邦楽」「アニメ」「映画」のいずれかのカテゴリを指定することで,その当時に流行した動画をYouTubeから検索してきて,結果を一覧表示できるWebサイトです。おかげさまで好評です。筆者は「懐かしい」という感情をうまく訴求できるサイトができたと満足しています。

Webアプリ未経験でもどうにかなった

 実は,筆者はこのRetroTubeを開発するまで,Webアプリケーションを開発したことはありませんでした。10年におよぶCOBOLでの開発経験以外では,5年ほど前にVisual Basicでちょっとしたプログラムを作ったことがあるだけ。最近のWeb技術に対する知識もほとんどありません。例えば,Perlという言語があるらしいことは知っていても,Rubyがプログラミング言語の名前なのか,フレームワークの名前なのかすら知らない状態でした。

 それでもRetroTubeを独力で作成することができました。その理由は,ひとえに現在の“Webアプリを作って公開しやすい環境”のおかげだと思っています。開発環境などは無償で利用できますし,開発手法についての資料などもインターネット上で容易に見つけることができます。できあがったものを公開するにしても,安価なレンタル・サーバーが手軽に利用できます。WikipediaやYouTubeのように,使いやすくて大規模のデータベースもあります。ひと昔前なら法人レベルで莫大なコストをかけないと実現できなかったようなサービスが,今では個人で手軽に実現できるような時代になっているようです。

 ここからはRetroTubeの開発中に体験した,面白かったことや学んだことなどについて,順を追って紹介していきます。

結婚式の2次会がきっかけ

 RetroTube開発のきっかけは,2006年9月のある日に起こった懐かしい体験でした。

 筆者は,友人の結婚式に招かれました。旧友と再会し,懐かしい思い出をいっぱい語り合いました。2次会ではカラオケ店で懐かしい歌を選んではたくさん歌います。

 深夜帰宅した筆者は,懐かしい気分に浸った気持ちのまま,WebブラウザでYouTubeのサイトを表示して画面右上の検索窓に「長渕剛 とんぼ」*3と入力してみました。筆者が好きな懐メロ曲の一つです。

 すると,過去に彼がテレビの歌番組に出演した時の姿を録画したビデオが検索結果として表示されました。思った通りです。続けて「バービーボーイズ 目を閉じておいでよ」「南野陽子 楽園のDoor」などと入力してみます*4。きちんとお目当ての動画が結果として返ってきます。

 このように,YouTubeの検索窓から「[アーティスト名]+[曲タイトル]」を入れると,過去の音楽動画であっても,だれかがアップロードしたものさえあれば,きちんと表示されるのです。この事実を確認した筆者は,“これはなにかできそうだ”と考えながら眠りにつきました。

 翌朝目覚めた筆者は,ある年ごとに整理された流行歌の一覧(表1)があれば,それを1件ずつYouTubeで検索していくことで,YouTubeですぐに再生できる懐メロのリストができるのではないかと考えました。Webブラウザである年を指定すると,流行歌一覧からその年にヒットする「アーティスト名」と「曲タイトル」でYouTubeを検索して,検索結果の動画URLをブラウザに一覧表示するサイト,というイメージです。

表1●流行歌の一覧
ヒットした年 アーティスト名 曲タイトル 検索結果動画のURL
1987 南野陽子 楽園のDoor http://www.youtube.com/watch?v=hoge1
1987 C-C-B 原色したいね http://www.youtube.com/watch?v=hoge2
1988 TM NETWORK BEYOND THE TIME http://www.youtube.com/watch?v=hoge3
1988 長渕剛 とんぼ http://www.youtube.com/watch?v=hoge4
1989 バービーボーイズ 目を閉じておいでよ http://www.youtube.com/watch?v=hoge5
1989 Wink 淋しい熱帯魚 http://www.youtube.com/watch?v=hoge6

 筆者の頭の中で,画面レイアウトや内部処理のイメージが急速にできあがっていきます。同時に,疑問や悩みがいくつも浮かんできました。

 著作権上,問題があると思われるYouTube上のコンテンツがいつまであるのか。流行歌一覧をWeb上で調べて自分で作ることができるのか。さらに大きな問題は,そもそもWebアプリを開発した経験の全くない筆者が,きちんと動作するレベルのものを作成して,多くのユーザーに楽しんでもらえるところまでもっていけるのかどうか――。

 ほかにも気になることはいろいろとありました。でも,深く考える前に,簡単なバージョンのものを気楽に作ってみることに決めました。面倒なことが起こりそうになったら,あとで悩めばよいのです。個人的な趣味ですから。