Microsoftは約2年前,「Origami」と呼ばれる不思議なものについて,奇妙な伝染性マーケティング・キャンペーンを開始した。そして後日,Origamiは「Ultra-Mobile PC (UMPC)」計画の一部であることが明かされた。

 UMPCとは基本的に,タッチ・スクリーンに対応した超小型のモバイル・コンピュータのフォーム・ファクタ(規格)のことである。言ってみれば,従来のキーボードとポインティング・デバイスの代わりに,より小型で携帯性に優れたフォーム・ファクタを採用したサブ・サブ・ノートブックのようなものだ。「OQO model 01」デバイス(UMPCのプロトタイプのようなものだった)を見たことのある人なら,UMPCがどんなものなのか理解できるだろう。UMPCは,PDAよりは大きいが,最も小型のスレートTablet PCよりも小さいのだ。

 第1世代のUMPCデバイスは,Windows XP Tablet PC Editionを搭載しており,方向性があいまいであるという批判を受けた。もちろん,問題の一端は,Microsoftがどのようなユーザーを対象にすべきか把握していないことにあった。Microsoftは,ポータブル・コンピューティング体験とは7インチのスクリーンを持つ重量が3ポンド以下のデバイスを使うことだ,という見解を持っていたが,どのようなユーザー層をターゲットにするかについては,確固とした考えがなかったのである。そこで同社は,第1世代のUMPCデバイスでは,マニアックな消費者をターゲットにしたが(伝染性マーケティング・キャンペーンが行われたのはこのためだ),これは失敗に終わった。同デバイスは2006年初旬に市場にリリースされたが,売り上げは芳しくなかった。

 だが,Microsoftがソフトウエア・レベルで行っていたことは,注目に値した。同社は,Origami Experienceと呼ばれる,XPに対するフィンガー・フレンドリーなフロントエンド・ソフトウエアを作成し,当時のデバイスの機能と限界の両方を想定してXPを最適化したのだ。

第2ラウンドではエンタープライズ分野に向かう

 第2ラウンドでは,Microsoftは同ソフトウエアの微調整を行い,Windows Vistaに焦点を定めて,新世代のハードウエアで作業を進めた。この種のデバイスへの電力供給に必ず必要な超低電圧(ULV)プロセサの制約のために,UMPCは今でもパフォーマンス面に問題がある。Microsoftはもっと幅広いユーザーにアピールできる面白いソリューションを創造するために,様々なハードウエア・メーカーと協力して開発を進めている。

 もっと具体的に言うと,UMPCはエンタープライズ分野に向かって進んでいる。次世代のチップセットが登場する2008年初旬までは静観するのが賢明かもしれないが,出張が多くて携帯性と互換性の両方を必要としている人にとって,これらのデバイスのソリューションとしての価値はますます高くなってきているのだ。

 UMPCの一番の利点は,“本物の”PCであるということだ。UMPCは,若干処理速度は遅いものの,Windowsアプリケーションを実行できる。そして,飛行機のエコノミー・クラスの座席のような極めて狭い場所でも,UMPCは使用可能なのだ。バッテリー寿命も優秀で,筆者がこれまでに見たどんな従来型ノートブックのバッテリーよりも,はるかに長持ちする。

 そして,ハードウエア設計面における様々な革新のおかげで,興味深いキーボードやポインティング・デバイスのソリューションがたくさん登場するだろう。例えば,筆者が2カ月ほど前からテストしているSamsung Q1 Ultraには,スマート・フォンのような素晴らしい小型サム・キーボードが搭載されている。

 このサム・キーボードは,真ん中で分割されており,スクリーンの両側にキーが配置されている。このデバイスを普通に両手で持つと,ちょうどキーの真上に両手の親指がくるようになっているため,読者の多くがすでに使っているであろうスマート・フォンのキーボードと全く同じように操作することが可能なのだ。筆者はこのキーボードを使って本記事を執筆したいとは思わないが,電子メールやWeb閲覧,ドキュメントの編集,その他のタスクに使う分には何の問題もないだろう。さらに,このキーボードはスクリーン上の仮想キーボード(もちろんこれも利用可能だ)よりも,間違いなく優れている。出先から事務所に戻った後は,USBのキーボードとマウス,さらに外部モニターをつないで,デスクトップのように使うことも可能だ。

 UMPCが携帯性と機能性の両方を兼ね備えた製品なら言うことはないのだが,実際はそうではない。パフォーマンス上の問題があるため,多くを求めないモバイル・ユーザーでも,これらのデバイスを自分の唯一のPCとして使いたいとはおそらく思わないだろう。とは言うものの,出張に出ることの多い筆者は,中型のノートブックを常に持ち歩くのがどれほど大変なことか知っているし,出張時の荷物を減らすことは筆者の永遠の課題でもある。

 筆者は大量の原稿を執筆するので,UMPCでは筆者のニーズを十分に満たすことはできない。そのため,筆者はチェック・インする手荷物にUSBのキーボードとマウスを詰め込むようにしている。筆者は出張の際に,何度かこのSamsungのデバイスを携行したことがある。そして,来週シアトルで開催されるMicrosoftの評論家のセミナーに行くときも,同デバイスを持っていくつもりだ。UMPCは,出張の際に携行する唯一のPCとして,十分な性能を持っているのだろうか? この件については追って報告するので,楽しみにしていてほしい。