「コーチング」。この言葉自体は,知っているレベルの深さは違っているとしても,「聞いたことはある」という方がほとんどではないでしょうか。

 しかしながら,コーチングを学んだり導入したりしている若手のリーダーの方から,「部下や後輩の指導・育成にコーチングを取り入れているが,なかなかうまくいかない」といった声をよく聞きます。

 コーチングを効果的に実践するためには,体系立てて学んだり,組織を挙げて取り組んだりする必要があります。でも,大きくとらえると,コーチングは「相手とのコミュニケーション」です。私たちは,日頃からコミュニケーションを取っていますし,その中ですでに実践しているコーチング・スキルもあります。従って,コーチング・スキルをあまり難しくとらえなくてもよいのです。

 今回は,部下・後輩の指導・育成に役立つ,基本的なコミュニケーション・スキルを活用した,コーチングのコツを紹介しましょう。

相手から具体的な行動を引き出す

 「コーチングという言葉は聞いたことあるけど,どういうものなのか実はよく知らない」という方のために,コーチングとは何かを簡単に説明しておきましょう。

 コーチングとは,「答えは相手が持っている」という観点で相手に考えてもらい,相手の自発的な行動を引き出すために,双方向で行われるコミュニケーションのスキルです。ごく簡単に,その特徴をキーワードとして挙げると以下のようになります。

【コーチングのポイント】
ポイント1:双方向のコミュニケーション
ポイント2:答えは相手が持っている
ポイント3:相手から具体的な行動を引き出す

 コーチングという言葉は,スポーツの世界で選手を指導する人のことを「コーチ」と呼んでいることに由来します。

 現在のビジネスにおいては,目標達成のための支援の一環として,コーチングが実践されており,経営トップへの支援や,社員のキャリアアップ,モチベーション向上の支援など,様々な場面に適用されています。

ポイントは「訊く」と「聴く」

 コーチングを効果的に行うためには体系立てた学習が効果的ですし,そのために必要となる手順やスキル,心理学的なアプローチなどもたくさんあります。

 今回はその中でも,「コーチングの第一歩」として,日常の部下や後輩との会話の中で,簡単かつ自然にコーチング的なコミュニケーションができるようになるためのコツを紹介します。

 そのためのポイントは「訊く」と「聴く」です。相手からの問いかけに対し,すぐに自分の考えや回答を述べるのではなく,まず相手の考えを尋ねて(訊いて),その考えを受け止める(聴く)のです(図1)。

図1●通常のコミュニケーションとコーチング的要素を取り入れたコミュニケーション
図1●通常のコミュニケーションとコーチング的要素を取り入れたコミュニケーション