ITを利用することで環境負荷の低いビジネスモデルを実現,あるいは資源効率を高めて企業競争力を強化しようという取り組みが広がりつつある。

 総務省が2005年4月に公表した「ユビキタスネット社会の進展と環境に関する調査研究会」報告書によれば,IT機器の電力消費によるCO2排出量は,2010年には2000年に比べて600万t増加する。その一方でIT活用によるCO2削減量は1480万tになり,差し引きで880万tのCO2削減効果があると試算している(図1)。この場合,ITが対象としているシステムは,高度交通システム(ITS)や物流・配送システム,サプライチェーン・マネジメント(SCM),オンラインショッピングなど11システムである。

図1 エネルギー消費量の将来予測
図1●エネルギー消費量の将来予測
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 また2006年版の環境白書では,産業環境管理協会が作成した「情報通信技術(ICT)サービスの環境効率事例収集及び算定基準に関する検討成果報告書」が紹介され,IT利用に伴う国内の情報通信業およびインターネット・ユーザーによるエネルギー消費量は,2010年には2000年に比べて0.4%増加し,国全体のエネルギー消費量の約1.1%を占めると指摘されている。その一方で,IT活用によるビジネスモデルやライフスタイルの革新などにより,エネルギー消費量は同期間に約3.9%削減できると予測し,差し引き3.5%の削減効果があるとしている。この場合は,ITソリューションとして16システムを対象にしている。

独自の評価軸で「環境貢献」を訴求するNEC

 グリーンなITソリューションを普及させるには,そのシステムが環境負荷削減にどれくらい貢献しているかを「見える化」するのがポイントだ。情報通信大手は,ITによる環境負荷削減効果を独自の基準で評価し,環境を切り口とした販促強化に乗り出している。

 NECは今年5月,「環境ソリューション事業」を再編・強化すると発表した。従来は,有害化学や廃棄物の管理,省エネ対応など,事業部ごとに対応していた企業向けソリューションを体系化し,新たなラインナップとして提供を開始している。実際には,(1)環境経営管理,(2)環境パフォーマンス管理,(3)環境負荷低減活動,(4)環境保全・修復活動の4つのカテゴリを設け,トータルで約40製品を提供。例えば(1)では,環境マネジメントシステムのISO14001取得支援サービス「NetEMS」,(2)では企業の環境負荷情報の収集と公開を支援する「GreenGlobe」などの基幹商品がある。

 同社では,環境ソリューションによるCO2削減効果を基本モデルを使って算出し,独自の基準を満たした場合にはエコソフトおよびエコサービスとして認定している。さらにトップランナー製品,つまりCO2削減率50%以上もしくはC02削減量が年間1500t以上見込めるもの,あるいはNEC独自の画期的な新技術を導入したソフトおよびサービスについては,「エコシンボル」適合製品として認証し,ユーザーに対して環境貢献度(CO2削減率など)をわかりやすく「見える化」している。

 2007年度にエコシンボル適合製品に認定されたソフトとサービスは8件。このうち「UNIVERGE OneMillion/Web会議ソリューション」は,遠隔地の人と映像や音声,資料,アプリケーションを共有し,臨場感あるコミュニケーションを実現するWeb会議システムである。SIP(セッション・イニシエーション・プロトコル)対応のテレフォニー・サーバーとIP電話を中心に,無線LANシステム,アクセス・ルーターなどを組み合わせたIPネットワークで構成する。PCとブロードバンド環境があれば手軽に構築できるのが特徴だ。

 評価モデルでは,東京の本社で毎月4回×2時間開催している会議を,Web会議システムに移行することを想定した(図2)。

図2●NECが今年度のエコシンボル適合製品に認定した「UNIVERGE OneMillion/Web会議ソリューション」<br>地方勤務の社員が本社へ電車などで移動する必要がなくなるため,環境負荷の削減に貢献する(資料提供:NEC)。
図2●NECが今年度のエコシンボル適合製品に認定した「UNIVERGE OneMillion/Web会議ソリューション」
地方勤務の社員が本社へ電車などで移動する必要がなくなるため,環境負荷の削減に貢献する(資料提供:NEC)。

 従来は,大阪から2人,名古屋から2人,京浜地区から6人の社員が,会議出席のため電車で移動していたが,こうした人の移動がすべてなくなるため,環境負荷が大きく削減される。一方で,サーバーやパソコン,プロジェクター,ネットワークの使用による電力消費が発生する。結局,「UNIVERGE OneMillion/Web会議ソリューション」の導入前と導入後では,CO2排出量が約79%削減できるという(図3)。

図3●「UNIVERGE OneMillion/Web会議ソリューション」の導入前後で,CO2排出量を比較。IT機器の電力消費が増えるが,人の移動がなくなるため,CO2を約79%削減できる(資料提供:NEC)。
図3●「UNIVERGE OneMillion/Web会議ソリューション」の導入前後で,CO2排出量を比較。IT機器の電力消費が増えるが,人の移動がなくなるため,CO2を約79%削減できる(資料提供:NEC)。

 「今年5月に環境ソリューション事業を再編した背景には,コンサルティングからシステム導入,運用サポートまで,ワンストップ・ソリューションを顧客に提供できる体制をグループ全社を挙げて構築することが狙いだった。2010年にはこの事業で200億円の売り上げを目指す」と,ニューソリューション開発本部マネージャーの田村徹也氏は展望する。