部門や企業の規模にかかわらず,ファイルを格納・共有するファイル・サーバーは欠かせない。一昔前なら,サーバーとサーバーOSを購入し,インストールの後に初期設定を施すのが常だった。しかし今では,簡単な初期設定だけで利用できるアプライアンス・サーバー,いわゆるNASが定着している。構築の選択肢が増えたものの,裏を返せば悩めるポイントが増えたということでもある。

 まず初回となる今回は,様々なNASおよび汎用サーバーの中から後悔しない1台を選ぶためのポイントを解説する(図1)。次回はLinuxとWindowsのどちらを選ぶかという観点で,第3回はActive DirectoryLDAPというディレクトリ・サービスをどう活用するかという観点で,選択のポイントを解き明かす。

図1●サーバー構築に伴う「分かれ目」
図1●サーバー構築に伴う「分かれ目」
運用開始後に別環境への移行する負担が大きいため,最初の選択が重要となる。
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カバー範囲は「部門から全社まで」

 一口にNASと言っても,ハードウエア性能やOSによって大きく3種類ある(表1)。(1)個人向けNAS,(2)LinuxやFreeBSDなどのUNIX互換OSを搭載する企業向けNAS,(3)Windows Storage Serverを搭載する企業向けNASだ。同時にアクセスするユーザーの想定数で言えば,(1)は数人,(2)は十数人,(3)は数十超というのが相場。それぞれの特徴を見ることで,汎用サーバーと比較した際の限界を見極めていこう。

表1●NASとファイル・サーバーの主な仕様の傾向
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表1●NASとファイル・サーバーの主な仕様の傾向

 (1)の個人向けNASは,家庭でのファイル共有を想定したNASである。1台から4台程度までハードディスクを内蔵可能。1台で1Tバイトの大容量ハードディスクが登場したため,最大容量が4Tバイトに達する製品がある。大容量化に伴い,障害発生時に失うデータも増えたため,複数台のドライブを内蔵できる製品はミラーリングなどの冗長構成を取れる。

 それでいて価格は実売で4万円程度からと安い。OSは無償のLinuxやFreeBSDに,同じく無償のWindowsのファイル共有サービスの互換ソフトである「Samba」を搭載するのが大多数を占める。

 弱点はWindowsのドメインに参加できない,稼働中のハードディスク交換(ホットスワップ)ができない,といった業務利用において必要性の高い機能を備えていないことだ。

 (2)のUNIX系企業向けNASは,個人向けNASに社内利用の管理機能を追加したタイプの製品。容量の上限だけで見ると個人向けと大差ないが,ドメイン連携機能,ホットスワップ機能を備える製品が主流となる。ホットスワップについては,ユーザー自らが交換する以外に,センドバックやオンサイト保守契約が結べるベンダーがある。個人向けに比べるとサポート面で充実している。価格は個人向けNASより高めで,10万円超が相場。ハードウエアは同時アクセスの頻度が高い環境を想定した構成になっていて,個人向けNASよりCPUの動作周波数やメモリー容量が大きい。

大規模=WindowsベースのNASが潮流に

 (3)のWindows Storage Serverは,Windows Server 2003の機能を一部制限した組み込み用Windowsである。同OSの推奨環境を満たすだけのハードウエア性能が必要になるため,(1)と(2)のカテゴリの製品よりもCPU性能やメモリー容量に余裕がある。筐体も汎用サーバーの転用であることが多い。総じてWindows Storage ServerのNASは,大規模用途に向いている。

 メリットは,何と言ってもWindowsクライアントとの互換性。既にWindowsのドメインを構築しているユーザーからすれば,互換ソフトであるSambaと違い,ファイル名の扱いに代表される互換性を気にする必要がない。

 しかもコスト面で見ると,クライアント・アクセス・ライセンス(CAL)が不要である。通常Windowsは,サーバーを利用するユーザー,またはコンピュータにCALが必要になる。詳しくは第2回以降に解説するが,SambaによるActive Directory互換環境を構築することで,CAL無しの運用が可能になる。