プロジェクトの節目で,メンバーは課題対応やドキュメント作成にばかり気をとられ,納品作業(契約)を忘れがちになる。納品作業は,ユーザー・営業・現場を巻き込んだ一大イベントであり,契約に関わる重大なタスクだが,いつもドタバタしがちである。そんな時,全体調整に長けたPMOが力を発揮してほしい。

川上愛二
マネジメントソリューションズ マネージャー


 小規模プロジェクトであれば,ユーザーと現場の関係が密になっており,日ごろから作業状況も共有されていることでしょう。そういうプロジェクトでは,納品作業が問題になることは少ないと思います。

 しかし,大規模プロジェクトでは,納品作業に苦労することが多いのではないでしょうか。「納品はしたが,認識の齟齬が発生しており,検収が遅延した」という苦い経験をした方は決して少なくないと思います。

監査・内部統制が重視され,検収は厳密に

 納品作業が滞らないように,大規模プロジェクトでは,フェーズ開始前に成果物を定義し,契約書にも記載します。ですが,プロジェクトはまず予定通りには進まないので,「当初予定していた成果物が作成できない」という事態も起こります。現場では,特定の成果物を作成できない理由が共有されているので,当然,その成果物は作成しないものと思っていますが,契約という次元では通用しません。そのため,ユーザー側の契約担当者(納品担当者)に,事情を論理的に説明しなければなりません。

 契約担当者がプロジェクトの現場に入っていれば説明は不要でしょうが,大抵はきちんと説明しないとトラブルに発展しかねません。特に近年は,監査・内部統制が重視されています。契約担当者は,論理的な説明がない限り,契約書と少しでも異なる納品物を検収することはできません。

 また,大規模プロジェクトでは,契約・納品作業を,現場のメンバーではなく,営業担当者が行うことがあります。この場合,営業担当者との認識齟齬にも注意すべきです。

 例えば,月末検収を行うため,「納品は月末から3営業日前にする」ということを当該フェーズの開始前に現場へ連絡していたとしましょう。しかし,フェーズの終了時にはすっかり忘れられていて,現場はその月の最終営業日に納品する予定で作業を進めていたりします。また,納品物をPDF化して納品するルールとなっている場合などで,現場と営業担当者のどちらがPDF化するのか決まっていなことが多々あります。互いに相手がすると思っていて,納品当日にドタバタしてしまうこともよく見る光景です。

ユーザー・営業・現場の認識を合わせ,納品の要所を押さえよう

 では,上記のような事態を回避するには,どうすればいいでしょうか。ポイントは,フェーズ終了前にユーザー,現場リーダー,営業担当者を集め,納品作業に関する認識を合わせていくことです。意外に知られていませんが,納品作業で最も大切なことは関係者の「認識合わせ」なのです。小さなことでも,情報を共有する手間を惜しむべきではありません。

 ここまで説明すれば,一連の納品作業を誰が仕切れば最もうまくいくか,皆さんには想像がついているでしょう。そう,もちろんPMOです。PMOはプロジェクト全体を見渡す視野を持ち,全体調整に長けています。契約担当者,営業担当者,現場の橋渡しをして,納品作業の要所要所を押さえていくのに適任です。

 関係者の認識を合わせるための打ち合わせは,フェーズ終了間際ではタイミングが遅く,かといって1カ月以上前だと早すぎて打ち合わせの内容を忘れてしまいます。ですから,2~3週間前から打ち合わせを始め,納品までのタスク,スケジュール,担当者を明確にし,進捗管理をしていくことが必要です。

 ユーザー側の契約・納品担当者と,プロジェクト状況や最終納品の形を共有する場も事前にセッティングしておきましょう。チームが多い場合は,PMOがプロジェクトの状況や成果物の作成状況などを整理して取りまとめ,契約担当者に一括して説明すると効率的です。もちろん,詳細な説明は現場担当でないとできませんので,チームリーダーには同席してもらいます。契約書上の成果物との差異,差異が生じた理由,リカバリー案をマネジメントの視点で論理的に説明すれば,スムーズに納品,検収が進むでしょう。

 ここまでPMOが手配すれば,もう納品でドタバタすることはないでしょう。


川上愛二(かわかみ あいじ)

 大学卒業後、独立系SIコンサルティング会社のシーアイエス(現ソニーグローバルソリューションズ)に入社。グローバルSCMシステム開発などの大規模プロジェクトを経験。

 現在は、コンサルテーションから、自社開発のソフトウエア提供、改革実施後のチェンジマネジメントまで、「知恵作りのマネジメント」を支援するマネジメントソリューションズに在籍。各種プロジェクトでPMO業務に従事している。連絡先は info@mgmtsol.co.jp