オフショア開発や先端技術開発の拠点として,中国やインドとの関係を深める日本企業。しかし,それらの国のITベンダーは,日本企業との関係をどう見ているのだろうか。グローバル・ソーシングの動向や海外ITベンダーの事情に詳しい,野村総合研究所の横井正紀 上級コンサルタントに聞いた。(聞き手は福田 崇男=ITpro)

日本企業のアウトソーシングへの取り組みをどう見ていますか。

野村総合研究所 情報・通信コンサルティング部 グループマネージャー 上級コンサルタント 横井 正紀氏
野村総合研究所 横井正紀氏 (写真:花井智子)

 日本企業が取り組むアウトソーシングの傾向は,ここ数年で大きく変化している。

 2000年あたりから大規模なアウトソーシング,特にシステム部門の業務を全面的に外部に委託する「包括的(フル)アウトソーシング」が盛んになり,2002年にかけて一気に増えた。なかでもシステム部門を子会社化してITベンダーに売却する形の包括的アウトソーシングに注目が集まったのがこの頃だ。

 しかし,システム企画など一部の業務だけを社内に残し,システム部門の要員からハードウエア,ソフトウエアまでを丸々社外に出してしまうやり方は,結果的にうまくいかないことも多く,アウトソーシングのあり方の見直しが始まった。その結果,2002年以降になると,包括的アウトソーシングは次第に下火になっていった。

 その一方で,2000年ごろから現在まで徐々に案件が増え,今後も主流になると考えられるのが「部分的アウトソーシング」だ。包括的と違い,特定のシステムの開発・運用や,それに関連する業務の運用だけを委託するタイプのアウトソーシングである。今後,包括的アウトソーシングが再び盛り上がって,部分的アウトソーシングを逆転するようなことはないだろう。

包括的から部分的へシフトしたとはいえ,ここにきて再びアウトソーシングへの関心が高まってきたのは,なぜでしょうか。

 アウトソーシングが単なるコスト削減の手段ではなく,企業が競争優位を確立するための有効な手段として認知されてきたからだ。さらに,アウトソーシングを進める過程でビジネス・プロセスを可視化したり抜本的に見直したりできることも,企業の取り組みを後押ししている。

 特に業務そのものの委託を伴う場合は,業務マニュアルを作るためにビジネス・プロセスを徹底的に分析し,第三者でも理解できるようにしなければならない。これは経営者にとって大きなメリットだ。このことが,システムに加えて業務そのものの運用を外部に委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)に関心が集まる一因にもなっている。

中堅・中小企業でもBPOが進む

話題のBPOですが,これから普及していくとお考えですか。

 今後5年はBPOに取り組む企業が増えていくのではないか。BPOというとすぐに大企業が思い浮かぶかもしれないが,中堅・中小企業の取り組みも進むと考えている。

 中堅・中小企業では,何百~何千人ものアルバイト店員を抱えているのに勤怠管理業務をシステム化できていない,といったケースがよくある。そのような企業は,アルバイトの複雑な勤務形態に応じて大量のデータを手作業で入力しているが,その業務を外部に任せれば,かなりの人的リソースをより重要な業務に回すことができる。このように中堅・中小企業であっても,人事・経理・総務といったバックオフィス業務が抱えている問題に対して,BPOが有効な解決策になりうる。

 大企業で今後導入が進むBPOとしては,バックオフィス業務や営業管理業務などのほか,情報システム関連ではサーバーやネットワークの監視業務などが考えられる。監視業務のBPOが進むと考えるのは,以前に比べてシステム運用の重要性が見直され,それだけコストがかかる傾向にあるからだ。セキュリティの確保など検討すべき課題は多いが,障害発生時のアラートに応じて問題の一次切り分けをする,といった程度の業務は任せられるだろう。

 最近では,中国やインドなどにシステム開発や業務運用を委託するケースも増えてきました。中国やインドの企業をどう分析していますか。

野村総合研究所 情報・通信コンサルティング部 グループマネージャー 上級コンサルタント 横井 正紀氏

 中国とインドは得意分野が異なっている。インド企業の特徴は,ITスキルが抜群に高いことだ。実際,インド企業へのアウトソーシングでは,コストの安さではなく,開発センスや技術力の高さを求めるケースが多い。

 これに対して,中国企業は一般に,データ入力など多くの人的リソースを必要とする業務のアウトソーシングに向いている。確かに人件費が安いし,人材も豊富だ。日本と同じ漢字文化圏なので文字入力にも抵抗がない,という長所もある。

 ただし,一口に中国企業といっても,売り上げの上位を占める少数の大手企業と,そのほかの企業では,かなり事情が違うということに注意してほしい。中国国内のITベンダー数十万社のうち,従業員1000人以上の企業は上位30社にすぎないが,この30社だけで中国IT業界全体の売り上げの8割を占めている。

 上位のうち特に規模の大きい企業は,2008年から2009年にかけてIPO(新規株式公開)を狙っている。これらの企業が何を考えているのかといえば,それは上流工程のビジネスへの進出だ。そのため,エンジニアの上流工程のスキルを高めることを重要な経営課題と考えている企業が多い。

 以前,ある中国ITベンダーの幹部に「株式を公開してから何がしたいのか?」と聞いたら,「(上流工程のビジネスに強みを持つ)日本のベンダーを買収したい」と言っていた。それほど上流工程のノウハウを欲しがっているのだ。