競合相手がおらず、自社のペースで商談をクロージングすることができるなら、こんなに楽なことはありません。しかし実際の商談では複数の競合相手がおり、それぞれの企業の営業パーソンも必死で案件獲得、クロージングに向けた営業活動を展開しています。そうした状況の中で勝ち残るためには、「敵を知る」ことが極めて重要です。

 「自社としてできる限りの提案をしたのだから、後はお客様次第だ」「この案件に競合はないとお客様が言っていたから大丈夫」などと競合対策を怠っていると、最後に泣きを見ることになりかねません。見込み案件を成約させるには、競合対策に万全を期して臨む必要があります。現在抱えている見込み案件に抜かりはないか、今回は競合対策の観点からクロージングのチェックポイントを考えてみることにしましょう。

Point1:競合の状況把握に抜かりはないか

 競合するソリューションプロバイダに対する手立てを考えるには、まずは競合相手を正確に把握することが大事です。商談の案件が発生した段階で、営業パーソンなら既に競合相手を特定しているはずです。ところが競合相手の会社名は分かっていても、どんな提案をしているのか、どこまで食い込んでいるのかなど、実態をどの程度把握しているかとなると、営業パーソンの力量によって大きな違いがあるのです。競合相手の提案内容の把握の方法については後で触れますが、提案内容ばかりではなく活動実態についても正確に把握しておくことが重要です(図1)。

図1●さまざまな観点から競合相手の状況を把握することが重要になる
図1●さまざまな観点から競合相手の状況を把握することが重要になる

 例えば、競合する会社が同じであっても、そこで顧客を担当している営業パーソンが異なれば、顧客へのアプローチ方法は変わってきます。人間関係を重視する営業スタイルなのか、それとも論理的で内容面を重視してくるタイプなのかを見極める必要があります。また、そのことを顧客の担当者がどう評価しているのかも知っておかなければなりません。

 顧客に対して条件提示などを強気に打ち出してくるようなタイプなのか、それとも低姿勢で柔軟に対応しようとするタイプなのかという違いもあるでしょう。営業経験の浅い者なのか、それともベテランの営業パーソンなのか、顧客に対する訪問頻度は自分に比べて多いのか少ないのかということも把握しておくことが大切です。

 もちろん条件提示の弾力性については、営業パーソンが一人で決められる性質のものではありません。しかも最近は、ソリューションプロバイダのキャパシティが限界近くになっていることもあり、採算性の良い案件を選別する傾向が顕著になってきています。従って、競合相手の技術対応力や稼働状況を推察しながら、本案件に対して競合が勝負を賭けてくるだけの余力があるのかどうかを判断することが重要です。

 また同じ競合相手でも、どこの事業部門や拠点が提案しているのかによって条件は異なってきます。事業部門や拠点ごとの政策によって、意思決定の優先順位は違ってくるからです。技術者のリソースの問題はあるにせよ、一方では事業部門や拠点はそれぞれの業績目標を必達しなければなりません。

 3月期決算に向けた売上目標達成のため、受注を優先してくる競合相手もいるはずです。受託ソフト開発の案件では当面、売り上げの拡大が見込めないことから、プロダクト型の販売が可能な案件に対する受注争奪戦も過熱しています。競合相手も自分たちと同じように、売上目標を達成するための受注に向けた取り組みを強力に推進しているはずです。

 このような競合相手の動向については、営業パーソンが担当する一つの案件だけを見ていたのでは、なかなか正確な判断がつきにくいものです。従って、同一エリアで競合相手がどのくらいの受注を獲得しているのか、現時点で競合案件がどれくらいあるのかを大局的にとらえる必要があるのです。そのためには、営業パーソンとマネジャーによる案件検討はもちろんのこと、より上位者を巻き込んだ組織的な案件検討会を実施する重要性が高まっているといえるでしょう。

 組織的な対応力という意味では、競合相手がその案件でプロジェクトマネジャーに登用することを想定している技術者に対する顧客の評価はどうか、その技術者の顧客への接触頻度が高くなっていないかどうかも把握するようにしてください。もし仮に、競合相手の技術者が顧客の懐に入り込むようなことになれば、不利な状況に追い込まれかねません。競合相手の顧客に対するアプローチ状況については、常に注意しておくことが大切なのです。

 技術者ばかりではなく、役員などの上席者クラスによる顧客へのアプローチ状況をつかんでおくことも欠かせません。営業パーソンとマネジャー、技術者、そして上席者という組織的な営業活動が重要なのはもちろんです。しかし、競合相手の組織営業の実態をつかむことができなければ、相手をしのぐ活動を企てることはできません。