「MVNO」という文字を見かける機会が,最近になって多くなっているように思います。読者の皆さんも,新聞やWebサイトなどで見かけていませんか?

 MVNOは「mobile virtual network operator」の頭文字を取った用語で,日本語では仮想移動体通信事業者などと表現します。virtual=仮想という文字が付くのは,通信設備を自前で用意した移動体通信事業者ではないから。自らは設備を持たず,サービスの部分だけを提供するために「仮想」と呼ばれています。

 海外では各種のMVNOが事業を展開しているようですが,こと日本では大きな話題に上ることは少なかったかと思います。これまでMVNOに対してネットワーク設備を貸し出していたのは事実上,PHS事業者のウィルコムだけでした。例えば日本通信が“日本初”のMVNOとしてPHSのデータ通信サービスなどを提供しています。とはいえ,それ以上の大きな広がりにはつながっていないのが現状です。

 ここにきて,MVNOの話題が大きくなってきたのは,総務省がMVNOの参入促進に本腰を入れてきたことが大きな要因です。この9月に公表した「モバイルビジネス活性化プラン」(関連記事:総務省がモバイルビジネス活性化プラン,携帯・PHS各社に料金内訳の明確化を要請)でも,MVNOの参入促進のためのガイドラインを改訂するなど,動きが積極化しています。

 モバイル用途での通信サービスとして,さまざまなユーザーニーズに応えるために,多くの企業が得意な分野でのサービスを提供できるようにする。MVNOが既存事業者とは異なる視点から新たなサービスを提供し,モバイルビジネスの競争が活性化するようになれば,最終的にはサービスの多様化や低価格化などといった形でユーザーに還元されるはずです。こうした競争を促す一つのきっかけとして,設備を持たずにサービスを提供できるMVNOは大きな意味があると思います。

どんなメリットをユーザーに示せるのか

 最近のニュースからMVNOに関連するものを拾ってみましょう。まずNECビッグローブがイー・モバイルの設備を利用して高速データ通信サービスを提供するというニュースがありました(関連記事1:BIGLOBEが最大3.6MbpsのHSDPAサービス,イー・モバイルの設備を借りて実現,関連記事2:ビッグローブ,MVNOとして3.6Mb/sの高速モバイル接続サービスを提供へ)。ニュース記事やビッグローブの発表資料を見て,私はこのサービスに大きな魅力を感じませんでした。料金は基本的にイー・モバイルと同等。端末の購入価格が不要で月々のレンタル料を支払う方式なので,初期費用が抑えられる……。メリットがあるとすれば,今の時点ではこの初期費用抑制ぐらいでしょうか。

 もう一つ印象的なのが,ウォルト・ディズニー・ジャパンの携帯電話サービスへの進出です(関連記事1:ディズニー,2008年春にソフトバンクと協業で携帯電話サービスを日本で開始,関連記事2:ディズニー,ソフトバンクの網を借りて携帯電話サービス)。米Walt Disneyが米国でMVNOによる携帯電話サービスを提供していましたが,こちらは年内での打ち切りが発表されたばかり(関連記事: Disney,MVNOモデルのモバイル・サービスを年内で打ち切り)。このため,日本ではMVNOではなくソフトバンクモバイルとの“協業”という形をとるとされています。とは言え,広義のMVNOの一種と言えるものであり,そのコンテンツによる圧倒的な付加価値をバックに,ユーザーを獲得しようというわけです。これ以外にも,インターネット接続事業者のIIJが,NTTドコモの設備を使って企業向けのデータ通信サービスを提供するといった報道もあり,MVNOに関連した話題は増えています。

 ではMVNOはユーザーにとってどんなメリットをもたらすのでしょうか。いくつかのパターンがあるとすれば,一つは,既存の事業者よりも安くサービスを提供することでユーザーにコストメリットが生まれること。MVNOが提供する他のサービスと組み合わせることで,低料金での提供やサービスの質の向上といったメリットが生じるケースもあるでしょう。もう一つはディズニーの例のように,既存の事業者にはない高い付加価値を提供すること。付け加えるとすれば,既存の事業者が提供していない新しい枠組みでのサービスの提供といった側面も,ユーザーメリットの一つに挙げられるかもしれません。

 しかし,MVNOの成功への道のりは簡単ではないように感じます。低料金のサービスを提供するには安い「仕入れ」が必要になりますが,提供側の事業者としては競合サービスに格安の卸値を示すことは難しいと思います。また,すでに世界に冠たる高付加価値の携帯電話サービスが溢れている現状で,多くのユーザーを囲い込めるだけのさらなる付加価値サービスとは何かと考えると,なかなかその答えを見つけるのは難しいでしょう。

 今年から来年にかけてが,携帯電話網を使ったMVNOにとって実質的なスタートの年になると考えられます。参入する事業者には,「参入することに意義がある」ではなく,ユーザーにメリットがあるサービスや料金体系をぜひとも積極的に提示してもらいたいと思います。せっかく始めるMVNOならば,ユーザーにまでその意気込みがしっかりと届く響くサービスを練って欲しいものです。数年後,「MVNOなんて言葉があったね」などと言われていないように……。