「受注できるはず」と思っていた見込み案件が決まらないケースを分析すると、キーパーソンの掌握が完全でない場合が多いものです。キーパーソンに対する詰めの甘さを排除して、確実に案件をモノにしなければなりません。一日でも早く受注に漕ぎ着けるために、キーパーソン対策の観点からクロージングのチェックポイントを見てみましょう。

 自社の提案した内容が、顧客のキーパーソン(最終意思決定者)の意向に沿ったものであったか、キーパーソンの心に響く内容だったかを把握することが、受注の成否を判断する重要なポイントになります。プレゼンテーションの場にキーパーソンが立ち会っていれば、その反応を見ることで直接感触を得ることができますが、立ち会っていない場合は後で反応を把握することが必要です。

Point1:キーパーソンの意向を確実につかめ

 仮にプレゼンテーションの場でキーパーソンから良い感触を得たとしても、競合他社の提案より優れた評価を得ることができなければ勝負には勝てません。従ってソリューションプロバイダは、各社のプレゼンテーションが終わった後に、キーパーソンの心証を確認する必要があるのです(図1)。

図1●キーパーソンの意向を正しくつかむことが重要
図1●キーパーソンの意向を正しくつかむことが重要

 キーパーソンの反応を確認するときには、電話だけでなく直接会って相手の顔色を見ながら情報を収集することが大切です。しかし実際は、キーパーソンに直接会うことができず、担当者から反応を聞き出すことも多いはず。その時に大切なことは、キーパーソンが実際にどのように言ったのかという事実をありのままに把握するということです。

 キーパーソンに直接面談することができれば、本人の口から話を聞くことができるからよいのですが、担当者を介して状況を聞くときには、担当者の主観が入り込む可能性があります。担当者の意見とキーパーソンの意見を区別しておかないと、判断を間違えてしまうことがあるのです。

 案件に対する意向や提案への評価には、キーパーソンのものと担当者など主管者レベルのもの、エンドユーザーのものなどが混在しています。担当者など主管者の支持を得ているのに、キーパーソンの支持が得られずに成約できないことを防ぐにはどうするか。そのためにはキーパーソンは何を重要視しているのか、そのポイントをつかむことが重要なのです。

 本来、キーパーソンが案件に対してどのような意向を持っているのかは、ニーズ把握のときにつかんでおくべきものです。キーパーソンは具体的にどのようなことを期待しているのか、具体的に何と言っているのかをつかんでおくのです。ニーズ把握の段階でそれができていなければ、キーパーソンを納得させられる提案になっているかどうかが分かりません。もしキーパーソンの意向が確認できていないのであれば、プレゼンテーションやクロージングの早い段階で必ず確認する必要があります。

 ニーズ把握の段階でキーパーソンの意向が把握できていたとしても、足の長い商談の場合は、プレゼンテーションの前にもう一度確認しておいた方がよいでしょう。なぜならば、キーパーソンの意向が変わっている可能性があるからです。

 案件発生からクロージングまでが短いものであれば、キーパーソンの意向が大きく変わる可能性は低いでしょう。しかし、商談期間が長期にわたる案件であれば、顧客を取り巻く外部環境が大きく変わり、案件に対する期待も変質することが考えられます。その見極めをしておくことが、クロージングを確実に成功に導くことになるのです。

Point2:デシジョンラインを押さえよ

 キーパーソンが案件の最終的な意思決定をするとしても、実際には複数の人間が意思決定にかかわるのが通常です。案件の規模が大きくなったり、関連する部門が多くなったりするほど、意思決定に関与する人たちも増えてきます。

 従って「顧客内で提案内容の検討作業が行われる際には、どの部門の誰が関与するのか」はもちろんのこと、「意思決定のためのりん議においては、どの部門の誰の承認が必要なのか」も明らかにしておかなければなりません。提案内容を検討する段階ではあまりかかわりがなかったのに、りん議が回ったときに反対者が突然現れることもあるからです。

 既に顧客と取引のあるソリューションプロバイダであれば、キーパーソンを特定したり、意思決定への関与者を探り出したりすることは比較的容易にできるでしょう。その点、新規取引案件の場合には、真のキーパーソンを特定し、最終的な意思決定の方法や関与者を特定するのに時間がかかるものです。

 そこで案件の発生段階から、意思決定の方法や関与者に関する情報を収集しておくことが大切です。案件の検討が進み、担当者がりん議を上げる段階になってから関与者の情報を収集していたのでは、時間的に打てる手立てが限られてしまいます。

 意思決定の方法と関与者を把握したなら、自社の提案を積極的に支持してくれる“シンパ”をつくることが重要です。日常の営業活動を通じて、営業パーソンは担当者とのリレーションづくりをしていますから、担当者は自社を支持してくれているはずだと考えている人が多いものです。

 ところが、競合他社の営業パーソンも必死に活動していますから、担当者が本当に積極的に支持してくれるとは限りません。支持してはくれるものの消極的な支持に過ぎず、顧客内でほかの誰かが積極的に競合他社の提案を支持しようものなら、そのまま黙って見過ごされてしまうかもしれないのです。「人間関係はできている」と過信せず、支持者づくりを積み重ねていくことが大切なのです。

 意思決定に関与する人の中には、実際に競合他社を積極的に支持している人がいるかもしれません。あえて特定のソリューションプロバイダを支持せず、中立の立場で判断しようとする人もいるでしょう。

 もし競合他社を支持する人を味方にすることができれば、案件の成約に一歩近付くことができますが、そんなにたやすいことではありません。中立派の支持を少しでも取り付けるように努力する方が、効果的である場合も少なくありません。意思決定に関与する人たちのシンパ度を評価したうえで、誰の支持を取り付けることが効果的なのか、作戦を立ててクロージング活動にあたるようにすることが肝要です。