前回に引き続き,文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の平成19年度の中間まとめ(注1)について,検討を加えていきます。今回は,中間まとめの第4節にある「検索エンジンの法制上の課題について」を取り上げます。

 検索エンジン(ディレクトリ型でなくロボット型を念頭に置く。以下同)は,ネット上の情報を収集し,検索対象のデータ(インデックス)を作成・蓄積します。また,検索結果を表示するためのデータ(サムネイル画像等)もあわせて作成しています。従って,検索ロボットによるインデックスの作成・蓄積には,「複製行為」が伴うことになります。

 ネット上の情報が著作物でなければ,「複製行為」があっても,著作権法上の問題はありません。しかし,大多数の情報が著作物であるという現状からすると,「検索エンジン自体が著作権法に違反するのではないか」という疑問は当然出てきます。

 中間まとめでは,まず,諸外国の対応を概観しています。検索エンジンについての規定を法律で直接定めている国はないようですが,検索エンジンによる著作権侵害が問われた複数の裁判例を紹介しています。

 米国では,傾向として,米国著作権法第107条のフェアユース規定(注2)により,フェアユースの成立が認められた(著作権侵害が成立しない)裁判例が多いようです(注3)。「DMCA(デジタル・ミレニアム著作権法)」により新設された著作権法第512条の免責条項(セーフハーバー条項)(注4)が適用された例も存在するようです。これに対して,ドイツでは肯定と否定で判例が分かれており,ベルギーでは侵害を肯定した例(注5),韓国で著作権侵害を否定する裁判例があるそうです。

 基本的に日本の著作権法は,米国というよりは欧州の体系に近いものです。欧州で検索エンジンの著作権侵害を肯定する例が見られるということは,仮に日本において裁判が起これば,著作権侵害になると判断される可能性が高いと考えられるでしょう。

検索エンジンを著作権法の「引用」とする解釈には否定的な意見

 とはいえ,検索エンジンは,ネットのインフラとしてある種公共性を帯びている面もあります。著作権侵害であると直ちに判断するのは収まりが悪い,と言わざるを得ません。

 そこで中間まとめは,現行の著作権法において検索エンジンのサービスが合法的だと解釈できるかどうかを検討しています。具体的には,著作権の権利制限規定である「引用」(著作権法32条1項)に検索エンジンのサービスが該当するかどうかを検討しています。

 例えば,検索結果を表示するためのデータとして作成されるサムネイル等については,「学説上引用にあたるとする見解がある」としつつも,「表示の態様によっては引用の範囲を超える場合もあり得る」としています。キャッシュ・リンクについても,「引用の目的上正当な範囲内で行われるものと評価することは困難である」という否定的な指摘があることを紹介しています。

 著作権法32条1項で「引用」が認められるのは,もともと「報道・批評・研究等の目的のため」です。検索エンジンのようにデータベースを作成する場合を念頭に置いていません。検索エンジンのために「引用」の解釈を変にねじ曲げることは,あまりいいことではないでしょう。

「黙示の許諾論」では法的リスクを完全払拭できない

 これ以外に,中間まとめは,「黙示の許諾論」についても検討を加えています。黙示の許諾論とは,「サイトを開設した著作権者は著作物が検索エンジンの検索対象になることを予見しており,かつ,検索対象にしたくなければ,メタタグを設定するなど検索対象となることを技術的に回避できるのだから,著作物の利用を黙示的に許諾している」という考え方です。

 しかしながら,著作権者が検索エンジンを回避する技術的な手段を知らない場合や,著作権者の許諾なしに違法著作物がアップロードされている場合には,そもそも技術的に回避することはできません。このため中間まとめは,黙示の許諾論によって検索エンジン・サービスの提供者が法的リスクを負うおそれを払拭(ふっしょく)できない,としています。

 検索エンジンのサービスを合法化する考え方として,黙示の許諾論は分かりやすいものです。Webサイト開設者の多くが,他の人に自分のサイトを見て欲しいと思ってコンテンツをアップしています。そのことを考えると,かなりのWebサイトにおける検索エンジンの「複製行為」は,黙示の許諾論で合法化できると思われます。

 商業的にコンテンツをネットにアップしている人の中には,検索エンジンにコンテンツをキャッシュされたり,サムネイルを作成されたりすることを好まない人もいるかもしれません。しかし,商業目的でコンテンツを利用する立場の人(企業)の多くは,検索エンジンを技術的に回避する方法を知っていることが多い,と考えられます。

 それでも,黙示の許諾論には「(回避方法を)知らない」と言われてしまえばそれまで,という脆(もろ)さがあります。中間まとめが指摘するように,法的リスクを完全払拭できないというのは,その通りでしょう。

権利濫用の法理で合法化できる範囲は狭い

 中間まとめでは,さらに,権利濫用の法理による対応可能性,すなわち「検索エンジンにおいて著作物の利用があっても,これに対する権利者の権利行使が,社会妥当性を超えたものであり権利濫用として許されない」という考え方についても検討しています。しかし,この考え方についても,権利濫用の法理が「権利行使による権利者の利益と検索エンジン・サービス提供者の受ける損害もしくは検索エンジンが有する流通促進機能との利益衡量の問題」,すなわち,ケースごとにどちらの利益を優越させるかを判断することになり,適法性に関する予測可能性を確保できないという欠点を指摘しています。

 権利濫用の法理というのは,著作権法固有の考えではなく,法分野一般に通用する法理です。ただ,実務的には,権利濫用となるのは特別な場合です。訴訟で権利濫用しか主張できないのであれば,原則“負け筋”の事件だという感覚があります。従って,この考え方に頼って検索エンジンを合法的だと主張することには,心許ないものがあります。

 権利濫用が認められるとすれば,著作権者が積極的に検索エンジンに登録するなどの行為を行っているにもかかわらず,検索エンジンによる著作権侵害を主張するようなケースでしょう。しかし,このようなケースは,先に紹介した黙示の許諾論の範疇(はんちゅう)で対応可能です。権利濫用の法理で実際に合法化できる範囲は黙示の許諾論よりも狭いので,あまり有効な考え方とは言えないでしょう。

 中間まとめでは,結局のところ,現行法の解釈では検索エンジン・サービス提供者の法的リスクを回避できないとして,立法による対応の可能性を探っています。この点については,次回引き続き取り上げます。

(注1)「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会中間まとめ」に関する意見募集の実施について。中間まとめはこのページから参照できる
(注2)フェアユースというのは,著作物の利用が,利用目的,著作物の性格等に鑑み公正であるといえる場合に著作権侵害とならないとする法理で,(1)利用の目的や性格,(2)被利用著作物の性格,(3)被利用著作物全体としてみた場合の被利用部分の量や本質性,(4)被利用著作物の潜在的な市場又は価値に対して利用が与えられる効果,といった4つのファクターを総合的に見て判断されるものです。著作権法の条文は一応ありますが,具体的な事情を利益衡量して裁判所がケースバイケースで判断するもののようです。詳しく知りたい方は,白鳥綱重「アメリカ著作権法入門」209頁以下等を参照してください
(注3)米国における検索エンジンをめぐる判決例の内容を知りたい場合には,作花文雄「Googleの検索システムをめぐる法的紛争と制度上の課題・前編」コピライト2007年7月号27頁以下,田村善之「検索サイトをめぐる著作権法上の諸問題(1)」知的財産法政策学研究vol.16(2007)73頁を参照してください
(注4)日本のプロバイダ責任制限法と似たプロバイダの免責を定める規定です。ただし,免責の要件についてはプロバイダ責任制限法をかなり違いがあります。セーフハーバー条項,プロバイダ責任制限法については,本コラムの「動画共有配信サービスと法的問題(1)」,「動画共有配信サービスと法的問題(2)」で簡単に紹介しています
(注5)作花文雄「Googleの検索システムをめぐる法的紛争と制度上の課題・前編」コピライト2007年7月号42頁以下参照


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。