コミュニケーションを円滑にする手法として「アサーション」というキーワードがある。これは相手の心情などに配慮するだけでなく、自分の気持ちを大切にするコミュニケーションのスキルだ。互いの意見を素直に出し合いながら、人間関係をスムーズにするもので、顧客とのコミュニケーションの向上にも応用できるだろう。

 コミュニケーションのスキルを向上させる方法として最も重要な点は、相手の話を「いかに聴くか」であると筆者は考えている。コミュニケーションのスキルというと、「いかに話すか」に注力している場合が多いと思うが、実際には「いかに聴くか」の方がはるかに難しい。

 最初は熱心に聴いていても、そのうちに自分の過去の体験などと照らして、「どうせ、こんなことだろう」と、すぐに相手の話をさえぎってしまいかねない。これでは相手はもう話さなくなり、コミュニケーションは成立しない。「聴くこと」は、相手の心情や悩みを受け止めることなのである。

 特にソリューションプロバイダの営業担当者は、顧客に対して“システムによるソリューション(問題解決)”という目に見えないものを扱っている。それだけに顧客の心情や悩みを聴き、どこまで受け止めることができるかが求められている。

 コミュニケーションのスキルを向上させる手法として、筆者が大いに関心を抱いているキーワードの一つが「アサーション」である。

 アサーションはアメリカが発祥で、1950年代に行動療法と呼ばれる心理療法の中から生まれたという。自己主張が苦手な人などを対象としたカウンセリング技法だった。

 アサーション(assertion)の本来の意味は「主張」とか「断言」などと強いイメージがあるが、むしろ「いかに良好な人間関係を構築するか」を狙った手法の一つとしてとらえられている。アサーションについてはいろいろな解釈があるようだが、筆者の理解では「相手の心情を傷つけずにコミュニケーションすること」だと思っている。

図1●アサーションがコミュニケーション新しいキーワードになる
図1●アサーションがコミュニケーション新しいキーワードになる
アサーション(assertion)とは、「いかに良好な人間関係を構築するか」を狙った手法
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日本流に言うなら「角が立たない」こと

 簡単な例で示すならば、ある人にとっては大事なモノが壊れてしまった場合に、「そんなモノはいくらでも売っているから、また買えばいいのでは」といった態度を示すのと、「よほど大切にしていたんですね。それは残念でしたね」などと相手の心情に対して配慮する言い方では、相手が受ける印象は全く異なるはずである。

図2●アサーションを推進するための主なポイント
図2●アサーションを推進するための主なポイント
相手に配慮するだけではなく、自分の気持ちも大切にすることが 重要になる

 アサーションでは相手の心情や悩みを聴き、思いやりながらコミュニケーションすることを重視する。やや日本的な言い方をすれば、「角が立たないようにする」ということだろう。

 ソリューションプロバイダの営業活動に例えるならば、次のような感じだ。システムなどで何らかのトラブルが発生した場合、顧客はとても心配するはずである。たとえ全体に影響を及ぼさない局所的なものであっても、顧客には分からない。ソリューションプロバイダの営業に何度も連絡してくるだろう。そうしたとき、「大丈夫です。心配ありませんから」とのんびりと対応していたのでは顧客の信頼を失う。

 顧客の心情を考えると、どんなトラブルでも素早く対応する必要がある。自社のことを中心に考え、相手のことを考えないやり方では、自分ではコミュニケーションが取れていると感じても相手はそう思っていない。

優しい言葉で話すかどうかではない

 他の人とのコミュニケーションをする際に、自己主張ばかりで相手の話を聴かない人がいる。特に何らかのトラブルが発生すると、まず相手に対してどなったり叱責しようとする。相手を威圧してしまい、相手の心情などには配慮しない。当然、相手は不快な思いをする。こういった態度を示す人はアサーションの観点では最もよくないタイプである。

 しかし大声を出さず、優しい言葉でコミュニケーションをすればいいか、というわけでない。どんなに優しい言葉で穏やかに話していても、自己主張に終始し相手の気持ちを考慮しない態度では、相手の心情を無視していることに変わりがない。

 特にそうした優しい言葉で自己主張をしようとする人は、ロジックで相手をねじ伏せようとするケースが多いようだ。相手が他に選択できないように、さまざまなロジックを展開して巧妙に自分の欲求を押し付けようとするのである。

 ソリューションプロバイダの営業担当者の中には、同様な態度を顧客に対して取っている人がいるかもしれない。顧客の心情や悩みにはほとんど配慮せず、自社の売りたい製品の効果などをロジックを駆使してうまく説明することで、いわば顧客に押し付けてしまうようなケースである。販売した製品を導入することが顧客の問題解決に本当につながればいいが、こうした売り方では導入した後で不快な思いをする顧客は少なくないはずだ。

 「とにかく売れさえすればいい」といった態度ばかりが目立つようでは、顧客はそんなソリューションプロバイダに対していい感情は抱かない。次の商談に結び付かなくなる可能性が大きく、長期的な視点で見れば営業にはマイナスになるだろう。