顧客とのトラブルなど営業関連を中心に、特に30代の社員に「心の病」が増加している。営業力強化の一環として、心の病の防止は重要なテーマになってきている。成果主義の中、マネジャーは社員ごとの売り上げや目標設定など数字中心の管理には注力しているが、部下の内面についても今まで以上に気を配ることが求められている。

 今回は「メンタルヘルス」をテーマに、顧客や部下とのコミュニケーションスキルについて解説する。メンタルへルス、つまり「心の病」が、営業活動におけるコミュニケーションスキルにも大きな影響を及ぼしているからである。

 筆者はソリューションプロバイダで5年間、営業人材開発部長という職務に就いていた。主な仕事は「営業力の強化」を命題にした営業研修の企画・立案と実施である。特に顧客といかにコミュニケーションを取るかを重視している。ところが、この2~3年は心の問題を抱える営業部員が増えてきたため、その部分まで手を広げざるを得なくなっている。心の病を解決しなければ、生き生きとした仕事ができず、職場での役割と責任を担ってもらえないからである(図1)。

図1●営業力の強化には、メンタルへルスの問題は避けられなくなってきている
図1●営業力の強化には、メンタルへルスの問題は避けられなくなってきている

 顧客とのささいなトラブルやちょっとした勘違いなど、きっかけは小さいことかもしれない。しかしお互いの感情のもつれが営業部員の心の中では次第に大きな問題に発展していき、出社拒否や退社にまで追い込まれてしまうケースもある。

 もちろん本人だけの問題ではなく、顧客に迷惑をかける事態になることは避けなければならない。同時にソリューションプロバイダにとっては将来を担う人材を失ってしまわぬように、何らかの対策を打ったり事前に防止することが重要になっている。

心の病は30代の社員が多い

 心の病というと10代~20代の若手社員が多いように思われるが、実態は違う。30代の中堅社員に心の病が増えている(図2)。

図2●「心の病」が最も多い年齢層
図2●「心の病」が最も多い年齢層

 財団法人社会経済生産性本部が2006年に、一般企業に「心の病にかかっている社員がいるかどうか」を調査したところ、6割以上の企業で既に心の病にかかっている人がいた。年齢別で見ると10代~20代の11.5%に比べ、30代が61%と他の年齢層に比べ突出している。ちなみに40代は19.3%、50代は 1.8%となった。

 30代が多い理由は、いわゆるベビーブーマーの団塊ジュニアとして人数が増加していることだけが原因ではない。警察庁の統計などを見ると、30代の人口 10万人当たりの自殺者数は、1997年の17.2人から98年には20人を超え、2006年はついに過去最多の25.5人になっている。自殺の増加は、最大の原因である心の病が30代で増加しているためだろう。

 ある産業医は、「実際に心の病で受診する30代が増加している。心の病の原因としては、現代的な社会背景と企業構造の変化に由来するのが多く、最も働き盛りの30代に大きな負荷がかかっているのだろう」と話す。

 特に成果主義や実力主義が導入されて以降、こうした傾向は強いようだ。40代は自分の成果を上げることに手一杯で後輩を指導できず、30代が責務を負わされているのでは、という指摘もある。しかも現在の30代はインターネット世代でもあり、帰宅後のストレス解消としては、インターネットの閲覧やテレビゲームに時間を費やすため、睡眠時間が少なくなる人も多い。その結果、疲労がなかなか解消されず蓄積されていく傾向にあるようだ。悪循環に陥っているのが今の30代といえるだろう。

 心の病は、まず遅刻・早退の増加、無断欠勤などで表面化するようである(図3)。心の病をより早い段階で把握して、芽を摘むことが必要だ。社員として採用した以上、企業には心の病にかかった社員を回復させ、職場に復帰させる責任がある。

図3●心の病にかかっている人を判断するきっかけ
図3●心の病にかかっている人を判断するきっかけ