斎藤 槙
ASU International社代表
日本に住む学生の方から、企業の社会責任(CSR)について勉強するには「どのアメリカのビジネススクールに留学したらいいか?」というお問い合わせをいただくことがよくあります。そこで今回はMBA(経営学修士)とCSRについての動向をお伝えしたいと思います。
毎年、アメリカでは10万人の新しいMBA取得者が誕生します。ディスコインターナショナルによると学生、企業派遣を合わせるとその内の2000人~3000人が日本人とのことです。
アメリカの景気が良かった90年代後半は特に、MBAを取ってウォール・ストリートの投資銀行に就職、大金を稼いで昇進街道をばく進していく──という、まるで映画で見るような世界を将来の夢に描く学生が多くいました。彼らが最も重要視するのは「ボトムライン」。つまり、収支決算の結果なのです。トム・クルーズの映画でも有名になった「ショー・ミー・ザ・マネー」というセリフは、「金を見せてくれるなら、取り引きしてやってもいいよ!」という意味で、彼らの拝金主義を象徴するような表現です。
ところが、エンロンやワールドコムに代表される一連の不正事件、世界貿易センタービルの崩壊を目の当たりにして、学生たちの考え方は明らかに変わってきています。あくどい商売はしない、不正は犯さない、他人をいたわる、社会に対して正しいことをする、本当に自分がやりたいことを仕事にする、という価値観へと流れてきているのです。
半数近くの大学で「社会責任」が必須科目に
こうした風潮を反映し、全米各地の大学が、「社会責任」「社会事業」「NPO経営」といったクラスをMBA課程の一環として開講するようになっています。こうした大学は、今や、ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)の養成学校という役割も果たしています。
2001年から2003年にかけて、「倫理」「企業の社会責任」「持続可能性」といった講義を必須科目としているMBA課程の割合は、34%から45%に増えました。また、MBA課程で選択できるこの種のクラスの数は、同期間に70%増加しました。これは、アメリカのアスペン研究所と世界資源研究所が、MBA課程を持つ国内の大学68校と、アジア、アフリカ、南北アメリカ、欧州、豪州の大学32校、計100校を対象に調べた結果です。ただし、残念ながら日本の大学は含まれていません。
1999年から2年に1回の頻度で行なわれているこの調査は、『ビヨンド・グレー・ピンストライプス』(グレーのピンストライプ・スーツを超えて)と呼ばれています。社会や環境への影響を学生に考えさせるような要素を組み込んだMBA課程を広げようというプロジェクトの一環として行われています。
2003年の報告書で、最先端の取り組みを行っていると評価されたのは、次の6校でした。
・ジョージ・ワシントン大学(ワシントンDC)
・ミシガン大学(ミシガン州アナーバー)
・ノースカロライナ大学(ノースカロライナ州チャペルヒル)
・スタンフォード大学(カリフォルニア州スタンフォード)
・イエール大学(コネチカット州ニューヘーブン)
・ヨーク大学(カナダ・トロント)
他の大学に比べてこの6校が優れている点は、選択的に企業の社会責任などを学べるばかりでなく、必須科目のなかにも社会・環境への影響を考慮する要素が多く組み込まれていることです。例えば、スタンフォード大学では、「財務会計」のなかに「会計手法とその実践が社会に与える影響」という内容が含まれています。
また、社会事業の分野を、MBAの副専攻にできる場合もあります。ミシガン大学には「企業の環境管理」という課程があり、MBAと併せて修了資格が取れます。ノースカロライナ大学では「持続可能な企業」、ヨーク大学では「ビジネスと持続可能性」を副専攻に選択できます。
調査では、学生主導の課外活動として、セミナーや講演会が企画され、社会問題に対する理解を深めるような努力が行なわれているかどうかについても評価されました。回答した100校から寄せられた会議、セミナー、講演会などの数は計700件を上回り、その数も2001年から約2倍という大きな伸びを示しています。
日本の大学の取り組みはどうなっているのでしょうか。とても興味があります。
(本記事は、ASU International社が配信しているメール・マガジン「アメリカ発 企業の社会責任ニュース 第22号 2004年3月」を基に、加筆修整したものです。)
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