伝送速度を高速化したデータ通信カードの新製品が登場した。一つは11月発売予定のKDDIの「W04K」。もう一つは10月に発売を開始したNTTドコモの「A2502 HIGH-SPEED」である。新たなパソコン接続用の定額データ通信サービス(PC定額サービス)に対応した製品もある。これらの実効速度を検証した。

 今回の速度測定の注目点は,国内のデータ通信カードの中で上り伝送速度が最速となる「W04K」(写真1)の実測値だ。このW04Kと,HSDPAに対応するドコモの「A2502 HIGH-SPEED」(写真2),同じくHSDPA対応のイー・モバイルの「D01HW」(写真3)の3機種を使って実効速度を測定した(表1)。なおW04Kは発売前のベータ版を使用した。D01HWは6月に発売済みである。

写真1●KDDIの「W04K」
写真2●NTTドコモの「A2502 HIGH-SPEED」
写真3●イー・モバイルの「D01HW」
写真1●KDDIの「W04K」写真2●NTTドコモの「A2502 HIGH-SPEED」写真3●イー・モバイルの「D01HW」

表1●最近の主なデータ通信カードの主要スペック
製品名 W04K FOMA A2502 HIGH-SPEED D01HW
提供事業者 KDDI NTTドコモ イー・モバイル
メーカー 京セラ 韓国のAnyDATAnet 中国のファーウェイ・テクノロジーズ
発売時期 2007年11月予定 2007年10月 2007年6月
形状(インタフェース) CFカード USBドングル型(USB 2.0) USBドングル型(USB 2.0)
通信形式(理論上の最高通信速度) EV-DO Rev.A(下り3.1Mbps,上り1.8Mbps)/CDMA 1X WIN(下り2.4Mbps,上り144kbps/)/CDMA 1X(下り144kbps,上り64kbps) HSDPA(下り3.6Mbps,上り384kbps)/W-CDMA(上り下りとも384kbps) HSDPA(下り3.6Mbps,上り384kbps)
PC定額 一部対応 条件付き対応 対応
データ通信機能以外の搭載機能 GPS/SMS/接続先限定 SMS なし
GPS:全地球測位システム  SMS:short message service  HSDPA:high speed downlink packet access  bps:ビット/秒

 測定場所は東京駅丸の内口,新宿西口付近と六本木の東京ミッドタウンの3カ所。1MバイトのファイルをDTI(ドリーム・トレイン・インターネット)のFTPサイトにアップロード/ダウンロードする際の速度を測った(表2)。

表2●3社のデータ通信カードでファイル転送した際の実効速度
1Mバイトのファイルをダウンロード/アップロードして実効速度を測定し,4回の平均値を算出した。
事業者名 KDDI NTTドコモ イー・モバイル
端末名 W04K FOMA A2502 HIGH-SPEED D01HW
新宿西口 昼間 下り 513.14kビット/秒 1224.5kビット/秒 679.96kビット/秒
上り 72.38kビット/秒 317.62kビット/秒 257.68kビット/秒
夜間 下り 1039.3kビット/秒 1738.46kビット/秒 1320.38kビット/秒
上り 69.96kビット/秒 313kビット/秒 326.58kビット/秒
昼夜平均 下り 776.52kビット/秒 1481.48kビット/秒 1000.17kビット/秒
上り 71.17kビット/秒 315.31kビット/秒 292.13kビット/秒
東京ミッドタウン 昼間 下り 318.56kビット/秒 991.24kビット/秒 959.06kビット/秒
上り 185.86kビット/秒 310.52kビット/秒 67.84kビット/秒
夜間 下り 140.88kビット/秒 1453.28kビット/秒 997.88kビット/秒
上り 104.88kビット/秒 289.74kビット/秒 327.1kビット/秒
昼夜平均 下り 229.72kビット/秒 1222.26kビット/秒 978.47kビット/秒
上り 145.37kビット/秒 200.13kビット/秒 197.47kビット/秒
東京駅丸の内口 昼間 下り 707.1kビット/秒 1930.36kビット/秒 1305kビット/秒
上り 412.54kビット/秒 293.56kビット/秒 308.32kビット/秒
夜間 下り 1579.34kビット/秒 1746kビット/秒 1683.14kビット/秒
上り 666.22kビット/秒 298.54kビット/秒 325.08kビット/秒
昼夜平均 下り 1143.22kビット/秒 1838.43kビット/秒 1494.07kビット/秒
上り 539.38kビット/秒 296.05kビット/秒 316.7kビット/秒

上り速度に強みを発揮したW04K

 W04Kは,KDDIのデータ通信カードとして初めてEV-DO Rev.Aに対応した。Rev.Aの伝送速度は下り最大3.1Mビット/秒で,現在下り最大3.6Mビット/秒のHSDPAを下回る。だが上りは最大1.8Mビット/秒と高速な仕様だ。

 今回使ったW04Kはベータ版であるが,場所によっては上り実効速度が他社製品より速かった。

 まず六本木では昼夜上り平均145.37kビット/秒,新宿では同71.17kビット/秒と低調。また六本木では下り速度も同229.72kビット/秒と仕様上の最大速度をかなり下回った。だが,東京駅では3機種中で最も高速な上り速度を記録。昼夜平均539.38kビット/秒だった。上り最大384kビット/秒のHSDPAでは成しえない速度で,Rev.Aの実力を発揮した。

 結果がばらついた原因について,KDDIは(1)東京駅丸の内口はRev.Aで接続できたがそれ以外の場所はRev.Aではなかった,(2)電波状況が悪かった,(3)トラフィックが混雑していた,といった可能性を挙げた。またW04Kの製品版には外付けアンテナが付く予定だが,実験では内蔵アンテナだけで測定した。

ドコモのA2502は速度に安定感

 3機種の中で最も実効速度が安定していたのはドコモのA2502 HIGH-SPEEDである。下り速度は3機種中で唯一,測定した3カ所すべてで昼夜平均1Mビット/秒を上回った。昼夜別に見ても,1Mビット/秒を下回ったのは六本木の昼間の991.24ビット/秒だけ。昼間の東京駅では,ほぼ2Mビット/秒出ていた。上り速度も,昼夜平均で300kビット/秒近辺で安定していた。

 イー・モバイルのD01HWの下り速度は,3カ所ともドコモの昼夜平均を下回ったが,ほぼ1Mビット/秒は出ていた。昼夜平均で最も速かった東京駅は約1.5Mビット/秒だった。上り速度は六本木だけ197.47kビット/秒と遅かったが,残る2カ所は300kビット/秒前後だった。5月に同社のデータ通信カード「D01NE」で測定した際は,上りが294k~325kビット/秒,下りは1M~1.88Mビット/秒だった。今回は総じて5月時点より遅いが,これはユーザー数の増加によるものと見られる。

イー・モバイルの定額は制約なし

 実験では,場所による違いはあるものの,3機種ともMビット/秒クラスの実力を発揮した。ただこの3機種を実際に使用するには,パソコンで通信する際に適用されるPC定額サービスが重要だ(表3)。いずれの機種も各事業者のPC定額サービスを利用できるが,料金やサービス内容は異なる。

表3●PC定額を利用する際の料金と注意点
機種名 W04K FOMA A2502 HIGH-SPEED D01HW
PC定額となるサービス名 WIN DATA CARD定額サービス 定額データプラン64K,定額データプランHIGH-SPEED データプラン,ライトデータプラン
PC定額の料金 9240円*1 4200円(定額データプラン64K),4200~上限1万500円(定額データプランHIGH-SPEED) 5980円(データプラン),3480~上限6480円(ライトデータプラン)
PC定額の利用上の注意点 アクセス先はイントラネットに限定 Webとメール以外のアプリケーションは基本的に利用不可 制限なし
*1:KDDIのリモートアクセス・サービス「CPA」の帯域共有型メニュー「タイプA」を契約し, 「W04K」を50回線以上契約することが条件。KDDI IP-VPNとCPAタイプAの月額利用料(0.5Mビット/秒で税込み3万1500円から,法人ごとの契約)が別途かかる

 KDDIのW04Kで利用できるPC定額サービスは,「WIN DATA CARD定額サービス」に限られる。これは出先からKDDIのリモート・アクセス・サービス経由で企業のイントラネットに接続するための法人専用サービスである。月額料金は9240円(1回線あたり)であり,50回線以上の申し込みと,「KDDI IP-VPN」などの契約が別途必要になる。

 NTTドコモは10月22日にPC定額サービスを始めたばかり。下り最大3.6Mビット/秒,上り最大384kビット/秒の「定額データプランHIGH-SPEED」と,上下とも最大64kビット/秒の「定額データプラン64K」を用意する。月額料金はそれぞれ上限1万500円,4200円。いずれもISPサービスとの組み合わせでインターネットに接続できる。ただし,利用可能なアプリケーションは基本的にWebとメールに限られる。P2Pやストリーミングなどトラフィックを多く消費しがちなアプリの使用を制限することで,ネットワークに負荷を与えないようにするための措置だ。

 このようにKDDIやNTTドコモの,PC定額サービスには,利用に際して制約がある。だが,イー・モバイルは接続先,アプリケーションともに制約を設けていない。