アイアイジェイテクノロジーのデータセンターでは共用型ストレージ・サービスを提供している。従来は2層構造のSANでこのサービスを提供していたが,ポート数などの拡張性が限界に達したので見直すことになった。新SANの構築を担当したアイアイジェイテクノロジーの川本信博氏に,旧SANの課題や新SANの設計のポイントを解説してもらう。(日経SYSTEMS編集)


 データセンターで提供している企業向けの共用型ストレージ・サービス。このサービスのシステム基盤を見直し,2007年10月から新基盤でのサービス提供を開始した。旧システム基盤は2003年に設計したもので,ビジネスの拡大に伴い拡張性などが限界に達していた。

 ここでいう共用型ストレージ・サービスとは,データセンターで預かっている顧客サーバーにディスクを提供するものである。そのサービス形態は「サーバーに直接ディスクを提供する方式」「データベースとして提供する方式」「NAS(NFS/CIFS)として提供する方式」など様々である。

 共用型ストレージ・サービスの新しいシステム基盤を構築するに当たり,最も苦労したのは「SAN(Storage Area Network)」の構成だった。本稿では旧SANの課題を説明したうえで,新SANの構成をどのような考えで決めたのか,その検討過程に焦点を当てて紹介する。

旧SANの構成と課題

 まずは,これまで利用していた旧SANの構成を紹介する。

 SANを冗長化するために,FC(ファイバ・チャネル)スイッチで「デュアル・ファブリック」構成を取っていた。デュアル・ファブリックとは互いに連結しあったFCスイッチ群(これを「SANファブリック」と呼ぶ)を2セット用意し,サーバーとストレージを両方のファブリックに接続する構成である。

 デュアル・ファブリックにより通信経路が二重化され,片側の経路のFCスイッチやケーブルなどの障害が発生すると自動的に経路を切り替えることができる。そのため,一方のファブリックで障害が発生しても,サーバーとストレージ間の通信を停止することなく継続できる。

 また,サーバーやストレージの台数が増えることを見越し,それらと接続するスイッチのポートを拡張できるように「コア-エッジ」と呼ばれる2層の構成にしていた。コア-エッジ構成とは,コアとなるFCスイッチに複数のエッジFCスイッチを接続することにより,エッジ側のFCスイッチのポートの拡張性を確保する構成である。エッジ側にサーバーを接続し,コア側にストレージを接続する。コアとエッジ間の接続は,複数のFCケーブルで接続。「ISLトランク」と呼ばれる複数ポートを束ねて利用できる技術により,帯域を確保していた。

 こうした構成で,サーバー側約240ポート,ストレージ側112ポートを利用していた。

 一般にSAN用のネットワーク機器をFCスイッチと総称するが,ポートの拡張ができないスイッチ・タイプと,筐体にモジュールを追加してポートを増設できるダイレクタ・タイプがある。旧SANではコアにもエッジにもダイレクタ・タイプを採用し,1台のコアFCダイレクタに2台のエッジFCダイレクタを接続していた。ただ,当時購入したFCダイレクタは一つの筐体を二つのドメインに分けることができたので,エッジ・ダイレクタは2台分を1筐体でまかない,合計4台のダイレクタでコア-エッジ構成を組んでいた(図1)。

図1●旧SANの構成
図1●旧SANの構成
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 接続するサーバー数や提供するストレージ装置が増えるに伴い,二つの課題が大きくなってきた。

 一つめは,隣接する2棟のデータセンターのビルにまたがってSANを構築しなければならなくなったこと。顧客から預かっているサーバーが増え,データセンターのフロアが手狭になり,別の階のフロアや隣のビルのフロアにサーバーを置かなければならなくなった(図2)。

図2●隣のビルにサーバーを設置する場合の問題点
図2●隣のビルにサーバーを設置する場合の問題点
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 SANファブリックとサーバー間の距離が長くなることで,ケーブル配線などの工事費用がかさむことになる。ビル間を接続する場合は,同一フロアの工事に比べるとコスト面で数百万円増え,工事期間は1カ月以上長くなっていた。

 また,ビル間をFCケーブルでつなぐ場合,一般的なマルチモード・ケーブルの伝送距離(1Gbpsの場合500m,2Gbpsの場合250m)を超えてしまい,伝送距離の長いシングルモード・ケーブルで接続する必要性が出てきた。サーバーに搭載されているHBA(ホストバス・アダプタ)はたいていの場合マルチモード用なので,シングルモード用のHBAに変更してもらう必要があった。

 二つめは,提供するストレージ筐体が4台以上になり,コアFCダイレクタのポートがほぼ埋まってしまったこと。ストレージを拡張するにはコアFCダイレクタのスイッチポート・モジュールを追加すればよいが,コアFCダイレクタのリース終了期限が近づいており,新たなモジュールの追加を避けたかった。

 この二つの課題を解決するため,次の方針に基づき新しいSANを構築することにした。

方針1.200台(400ポート)以上のサーバーを接続できること
方針2.ストレージと180ポート以上接続ができること
方針3.ビル間に新規にケーブルを引くことなく,サーバーやストレージを新たにつなげられること