データ品質の問題に着目し、少しでも劣化を防ぐためには、どうすべきなのか。いくつかの企業では、個別の対策だけでなく、データ品質を維持・改善させる「データの品質マネジメント」の考えを全社に取り入れ、組織的な活動を継続している。

 日本航空(JAL)は入力時点での品質向上に着目した。一度間違ったデータがシステムに登録されてしまうと、社内のあちこちにコピーされ、完全に訂正するのが難しくなってしまうからである。

 データ品質の維持・向上は、乗員・乗客の安全に直結する。そしてその基本は、入力時に正確かどうかをチェックすることだ。

 このような考え方の下、JALが08年11月の全面稼働を目指して構築を進めている「新整備システム(JAL Mighty)」では、データ入力作業のミス防止や負担軽減に力を注いでいる(図1)。

図1●日本航空(JAL)が構築を進めている新整備システムのポイント
図1●日本航空(JAL)が構築を進めている新整備システムのポイント
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 JAL Mightyに入力するデータは、すべての機体整備作業の出発点だ。JAL Mightyは、150機以上に及ぶ機体の情報や、ネジなども含めれば100万点に上る部品情報、約6000人の整備担当者の情報を一元管理。さらに機体の飛行時間や故障状況に応じて、整備スケジュールを立案する。

現場での正確なデータ入力を支援

 もし誤ったデータを基に整備不良の部品で飛行機を飛ばしたら、最悪の場合、人命にかかわる。そこでJAL Mightyではデータの再入力を排除する。「人間は入力ミスを起こすもの」という前提で、入力回数を少なくすることで誤ったデータを減らそうという考えである。

 例えば整備の現場近くにある端末から、故障した部品の情報を入力する。この情報は、後工程である部品の倉庫部門や修理部門にある端末の画面にも、間もなく表示される。これにより、業務ごと、部署ごとに必要だった再入力作業をなくす。

 JALの鈴鹿靖史 整備本部整備企画室部長は「さまざまな場所でデータを再利用するからこそ、データ発生源での入力精度を高めることが欠かせない」と語る。基本的にパソコンの画面に表示した項目を選択していけば、担当者が入力を完結できるようにした。

 システム側では常に、部品の識別番号と機体の構成情報を照合し、入力データの整合性を監視する。機体整備のルール上あり得ないデータを入れようとすると、画面で警告を発する。機体の左側に配置すべきエンジンを右側に配置するよう入力されたら、赤い表示で整備士に確認と再作業を促す、といった具合だ。

 過去20年以上にわたり必要に応じて追加開発してきた現行システムは、約60のサブシステムに分かれている。それぞれデータ項目の定義が異なり、同じ意味のデータでも交換や連携が困難。そのため整備担当者は、紙ベースの作業や、同じようなデータをシステムに何度も再入力することを強いられていた。

 「整備の現場では、分刻みで作業が進む。現行の整備システムは、データ入力のミスを防ぎきれない。これでは整備作業にも影響が及んでしまう」と鈴鹿部長は打ち明ける。「データ品質を高める工夫を凝らした新システムで、整備の品質を限りなく高めたい」(鈴鹿部長)。

 「現場力」という言葉が盛んに言われるようになった。企業活動の源泉は営業や製造などの最前線にあることを示す言葉だが、データの品質向上についても、同じことが言えそうだ。