「グローバルに考え、ローカルに行動する」。P&Gは、この方針をマスターデータの品質マネジメントでも実践している。

 マスターデータの発番や管理は、「GDC」と呼ぶ情報システムに一元化している。GDCでは全世界の100万件超の商品マスターデータを管理。GDCは社内に100以上ある業務システムに対して、マスターデータを配信する。

 P&Gは世界標準のシステムやルールに基づいてマスターデータを管理しつつ、日本の商習慣に合わせた活用方法を実践している(図1)。同社は卸から、1日当たり20万件の出荷実績や販売実績のデータを受け取る。

図1●P&Gが実施しているマスターデータのガバナンス体制
図1●P&Gが実施しているマスターデータのガバナンス体制
世界の標準に沿って品質を維持しつつ、日本独自の商習慣に対応させた活用に取り組んでいる
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 卸から受け取るデータは、日本の標準的な商品コードであるJANコードで記述している。P&Gの販売管理システムや在庫管理システムに取り込むには、すべてをP&Gのマスターデータへ変換しなければならない。

 日本法人のCIOを務める玉置肇IT本部長兼グローバル・ビジネス・サービス代表は「当社のマスターデータに不整合が発生すれば、JANコードとの変換がうまくいかず、たちどころに支障が出てしまう」と強調する。

 そこで同社は、標準のコード体系に日本独自の属性を加えたり、コードの階層構造の相対的な関係を崩さずにグループを変更できるようにした。日本法人では、異なるグループのシャンプー製品を同一グループとして見られるようにするといった工夫を実行しているという。

 小売店向けのCRMを担当する関 理恵システムズ・マネージャーは「日本の卸や流通網は、非常に細分化されており世界でも独特。世界標準をムリに当てはめようとすると、業務が順調に進まないこともあり得る。標準を崩さない範囲で、日本法人の裁量でマスターデータを修正できるようにしている」と話す。

CADデータの品質向上に挑む自動車業界

 日本を代表する産業である自動車業界では、車体のデザインから金型の作成に至るあらゆる工程で、CADの活用が進んでいる。そんな中で自動車業界が直面してきたのが、CADデータの品質問題である。

 自動車の設計図面から金型を起こす際には、自動車メーカーがCADデータを金型メーカーに転送する。CADシステムが違えば、そのデータの再現にも違いが生じる。その結果、面に穴が空く、一体だった面が分割される、といったエラーがしばしば発生していた。01年に業界内の状況を調査した結果、データの修正に必要だったコストを試算すると、年間で約71億円に上ったという。

 こういった状況を改善するため、業界団体である日本自動車工業会(自工会)は00年から「PDQガイドライン」の策定などの活動を続けてきた。曲線などのデータをどう表現すべきか、あるいは図面の構成などを規定した。PDQガイドラインに沿ってデータを作成するよう促すことで、データ交換時の不具合発生を防ごうというのだ。

 業界を挙げての取り組みが功を奏し「PDQガイドラインの効果は表れつつある」と、ガイドラインの検討委員であるホンダエンジニアリングの多賀和春 事業企画部事業企画ブロック生産技術主任はいう。

 データ変換の専門部署を設けて対処してきた日産自動車は、協力会社を巻き込みながらPDQガイドラインを展開したことで、不具合の発生件数を95%削減できたという。自工会はPDQガイドラインの普及活動やアップデート作業を続けている。